最近の研究から

環境DNA分析に基づく新しい系統地理調査-バケツ一杯の水から魚の地域分化を解明-

概要

 山口大学大学院創成科学研究科(工学系学域)社会建設工学分野の赤松良久教授、流域環境学講座の中尾遼平准教授(特命)、京都大学 理学研究科 辻冴月 日本学術振興会特別研究員PD、同 渡辺勝敏 准教授、(株)環境総合リサーチ芝田直樹(研究当時、現:タカラバイオ(株))、福岡工業大学 乾隆帝 教授らの研究グループは、環境水に含まれる生物由来のDNA(環境DNA)(注1)を分析するだけで、複数種の系統地理を同時に推定することができる新手法の開発に成功しました。

 生物種内における遺伝的な地域性や系統分化は、種の分布や進化の過程を推測するための重要な手がかりです。しかし、この遺伝的な違いを調べる系統地理調査は多地点から対象種を多数個体捕獲し、組織DNAを個別に分析する必要があるため、多大な労力や時間を要します。そこで本研究では、環境水に含まれる環境DNAから効率的に正確な系統地理情報を取得する手法の開発を試みました。最大の課題であった偽陽性配列(実験の途中で必ず生じる本来存在しない配列)の除去のための効果的なデータスクリーニング方法を考案、適用した結果、対象とした淡水魚5種すべてについて、一般的な捕獲調査と同様の地域分化パターン(遺伝的集団構造)の情報を得ることに成功しました。本手法は、これまでにない簡便かつ効率的、非侵襲的な調査を実現し、系統地理研究を通じた生物多様性の理解に大きく貢献することが期待されます。

 本成果は、2023年3月7日(現地時間10時01分)に国際学術誌「Molecular Ecology Resources」にオンライン掲載されました。

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用語解説

• (注1)環境DNA:生物が自身の生息環境中(水中や土壌中など)に放出したDNA物質の総称。魚類の場合は、排泄物や粘液、表皮、精子などに由来する。

発表論文の概要

• タイトル:Environmental DNA phylogeography: successful reconstruction of phylogeographic patterns of multiple fish species from cups of water(環境DNA系統地理:水から複数種の系統地理パターンを明らかにする)
• 著者:Satsuki Tsuji, Naoki Shibata, Ryutei Inui, Ryohei Nakao, Yoshihisa Akamatsu, Katsutoshi Watanabe
  辻冴月 (京都大学大学院理学研究科、山口大学大学院創成科学研究科)
  芝田直樹 ((株)環境総合リサーチ)
  乾隆帝  (福岡工業大学社会環境学部)
  中尾遼平 (山口大学大学院創成科学研究科)
  赤松良久 (山口大学大学院創成科学研究科)
  渡辺勝敏 (京都大学大学院理学研究科)
• 掲載誌:Molecular Ecology Resources
• 公表日:2023年3月7日
• DOI:10.1111/1755-0998.13772

謝辞

 本研究は、日本科学協会笹川科学研究助成(202-5001)およびエスペック地球環境研究・技術基金、山口大学YUプロジェクトの研究助成を受けて実施されました。

水に含まれる環境DNAから「どんな魚」が「どれだけいるか」を同時に推定
-定量的な魚類群集モニタリングを容易に実現-

 山口大学環境DNA研究センターの辻冴月(つじさつき)学術研究員(現・京都大学)と赤松良久(あかまつよしひさ)教授、福岡工業大学の乾隆帝(いぬいりゅうてい)教授らの研究グループは、九州・中国地方の複数河川における大規模な調査により、水に含まれる魚類の環境DNAを定量的環境DNAメタバーコーディングにより定量的・網羅的に分析することで、「どんな魚類」が「どれだけ生息しているか」を同時に推定できることを明らかにしました。本成果は、2022年12月13日に国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究成果のポイント
・一般的に用いられる環境DNAメタバーコーディングでは、分析上の制限により、種の存在を検出できるものの、それらの量を定量的に評価することは困難でした。
・既知濃度の内部標準DNAを試料に添加することで、メタバーコーディングにおける(半)定量評価を可能にする定量メタバーコーディング法(以下、qMiSeq法)がUshio et al. (2018)により開発されました。
・魚類の環境DNAメタバーコーディングにqMiSeq法を適用し、推定された環境DNA濃度が、調査地に生息する各種の個体数や生物量を反映するか検証しました。
・推定された各種の環境DNA濃度は、採水調査時に電気ショッカーを用いて捕獲された各魚種の個体数および生物量を反映していることが示されました。 ・環境DNA定量メタバーコーディングは生物多様性の定量的なモニタリングを容易に実現する有用性の高い手法と言えます。

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図1. (a) 野外調査の概略 (b) qMiSeq法の分析手順
図2. 地点間で検出頻度の高かった11種について、定量化された各種DNA濃度と捕獲データ(個体数および生物量)との関係。
負の二項分布に基づく一般化線形モデル(GLM)の結果が有意(p<0.05)な種のみ、関係を実線で示した。
発表論文の情報
研究論文名: Quantitative environmental DNA metabarcoding shows high potential as a novel approach to quantitatively assess fish community
著者  : 辻冴月(京都大学大学院理学研究科、山口大学大学院創成科学研究科)*、乾隆帝(福岡工業大学社会環境学部)、中尾遼平(山口大学大学院創成科学研究科)、宮園誠二(山口大学大学院創成科学研究科)、齋藤稔(山口大学大学院創成科学研究科、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター)、河野誉仁(国立研究開発法人 土木研究所)、赤松良久(山口大学大学院創成科学研究科)
*責任著者
公表雑誌: Scientific Reports
公表日 : 2022年12月13日
DOI   : 10.1038/s41598-022-25274-3

謝辞
 本研究は、下記の研究助成を受けて行いました。
 ・公益財団法人河川財団 河川基金(2019-5211-030)
 ・山口大学YUプロジェクト
 ・日本工営共同研究講座

水道水におけるカビ臭の原因となる藻類発生の予兆を迅速に検出するための分析手法の開発

 山口大学大学院創成科学研究科の赤松良久教授、流域環境学講座(日本工営共同研究講座)の中尾遼平准教授(特命)らのグループは、九州大学および三重県環境保全事業団と共同で、水道水におけるカビ臭の原因となる藍藻類のDNAを検出するための分析手法を開発し、実際にダム貯水池の環境水から藍藻類を検出することに成功しました。 また、本研究の技術は、水道水におけるカビ臭発生の原因となる藍藻類の発生・増殖の予兆を迅速かつ簡易的に検出できる手法となっています。 本研究の成果は、国際学術誌「Landscape and Ecological Engineering」電子版の特集号「Environmental DNA as a Practical Tool for Aquatic Conservation and Restoration」に2022年12月6日に掲載されました。

研究成果のポイント
・環境水中に存在する藍藻類のもつDNAを検出する手法を開発し、ダム貯水池における藍藻類の検出に成功しました。
・ジオスミン産生能をもつコードDNAのみを検出できるため、カビ臭の原因を作る藍藻類のみを特異的に検出することができます。
・環境水中のジオスミン濃度や藍藻の細胞数とDNA濃度の間には正の相関がみられ、藍藻類の増加傾向やカビ臭の発生を量的に推定することが可能です。
・本研究の成果はカビ臭発生の早期検知を可能にし、水源地における水質の維持・管理に大きく貢献できる可能性があります。

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研究成果の概要図
発表論文の情報
タイトル: Application of a quantitative PCR method for monitoring of geosmin-producing Anabaena spp. in a Japanese reservoir
著者  : 赤松良久(山口大学大学院創成科学研究科)・中尾遼平(山口大学大学院創成科学研究科)・本澤大生(一般財団法人三重県環境保全事業団)・古川浩司(一般財団法人三重県環境保全事業団)・栗田喜久(九州大学大学院農学研究院)
公表雑誌: Landscape and Ecological Engineering
DOI   : https://doi.org/10.1007/s11355-022-00533-7
公表日 : 2022年12月6日0時(日本時間)

超高分子量ポリマーの絡み合いで簡便に創製できる自己修復ゲルを開発
~循環型経済への適応や高耐久フレキシブルデバイス用材料への応用に期待~

 山口大学大学院創成科学研究科(工学系学域)応用化学分野の藤井健太教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構および北海道大学大学院生命科学院からなる研究チームは、巨大タンパク質や天然ゴムなどに匹敵する100万を越える分子量を持つ超高分子量ポリマーと不揮発なイオン液体からなる自己修復ゲル材料を、極めて簡便に創製する手法を開発しました。このポリマーはリサイクル性に優れ、循環型経済に資するだけでなく、IoT基盤技術に必須の高耐久性フレキシブルデバイス用イオン伝導材料への応用が期待されます。

概要
 自発的に損傷部分を修復することで耐久性を向上させる自己修復高分子材料は、循環型経済の観点から大きな注目を集めています。近年、例えば水素結合の様に可逆に結合・解離を繰り返す特殊な官能基を高分子ネットワークに導入するといった化学的なアプローチによる研究が盛んに進められていましたが、そのような自己修復材料ではしばしば精密な合成手法や複雑な製造プロセスを要求される場合がありました。一方で、高分子鎖の絡み合いといった高分子材料が普遍的に持つ特徴を利用した物理的アプローチによる汎用性のより高い自己修復高分子に関する研究は殆ど行われていませんでした。
 今回研究チームは、イオン液体中では重合反応が効率良く進む特性を利用することで、非常に分子量が高い高分子の絡み合いから形成される「超高分子量ゲル」を簡便に創製する手法を見出しました。化学架橋剤を用いた従来のゲルと比較して、この超高分子量ゲルは優れた力学特性を示し、熱成型によるリサイクルも可能となります。さらに超高分子量ゲルは室温で高い自己修復機能を示しました。


図 (a)化学架橋ゲルと超高分子量ゲルの圧縮試験。
(b)超高分子量ゲルの自己修復試験の模式図・写真。

 リサイクル性および自己修復性を持つゲル材料を簡便かつ汎用的な方法で創製できる本研究成果は、循環型経済の観点から重要であると考えられます。また不揮発・不燃性なイオン液体を溶媒とする高分子ゲルは、フレキシブルエレクトロニクスに用いる安全なイオン伝導材料として有望視されます。

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謝辞
 本研究は主に国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ「力学機能のナノエンジニアリング」における研究課題「超高分子量ポリマーに基づく新奇機能開拓(JPMJPR2196)」(研究者:玉手亮多)の研究の一環として行われました。また研究の一部では日本学術振興会 科学研究費助成事業(20K15349、21H05604、21H02006、20H02804、20K21229)、および松籟科学技術振興財団の研究助成事業の支援を受けました。

掲載論文
題目: Highly stretchable and self-healable polymer gels from physical entanglements of ultrahigh molecular weight polymers
著者: Yuji Kamiyama, Ryota Tamate, Takashi Hiroi, Sadaki Samitsu, Kenta Fujii, Takeshi Ueki
雑誌: Science Advances
掲載日: 2022年10月19日
DOI: 10.1126/sciadv.add0226

‘‘Salting-in’’効果を利用したイオン液体中への高分子可溶化メカニズムを分子レベルで可視化

 イオンのみで構成される室温付近で液体状態の塩である「イオン液体」は、不揮発性や不燃性、高いイオン伝導性など、電池やキャパシタをはじめとする電気化学デバイス用の電解質材料として広く研究されています。しかしながら、一部の高分子との相溶性が著しく低い(イオン液体中に高分子が全く溶解しない)ため、高分子網目を用いたイオン液体のゲル化が不可能であり、実用を想定した材料化の面で大きな課題を抱えていました。

 大学院創成科学研究科(工学系)博士前期課程化学系専攻の柴田雅之さん(2020年度修了)と博士後期課程物質工学系専攻1年の澤山沙希さん(藤井健太教授研究室)は、電解質塩を溶液中に添加することで発現する塩溶効果(Salting-in)に着目し、これを利用してホスホニウム型イオン液体中にポリエチレングリコールを可溶化した高分子溶液の精密構造解析を実施しました。これにより、特異的な高分子可溶化における電解質塩(リチウム塩)の役割を明らかにするとともに、溶存する高分子鎖とイオンの相互作用を分子レベルで可視化することに成功しました。

 本研究成果は、2022年9月5日にJ. Mol. Liquids,366, 120255 (2022)に掲載されました。

タイトル: Structural aspect on “Salting-in” mechanism of PEG chains into aphosphonium-based ionic liquid using lithium salt”
著者名 : M. Shibata, S. Sawayama, M. Osugi, and K. Fujii*
掲載雑誌: J. Mol. Liquids,366, 120255 (2022).
掲載日 : 2022年9月5日

炭酸セシウム存在下銅触媒による立体特異的クロスカップリング法開発―光学活性第四級炭素中心合成が容易に

 2010年ノーベル化学賞は、パラジウム触媒によるクロスカップリング反応が対象分野でした。このクロスカップリング法は医農薬品や電子材料など様々な有用物質の合成に広く利用されており、これを用いないプロセスは無いと言っても過言ではありません。そのように優れたクロスカップリング法ですが、光学活性第四級炭素中心の合成は非常に難しく現在までに限られた方法しか報告例がありません。この原因は、炭素の周りには4つまで置換基を配置することが可能ですが、最後の4つ目の置換基の立体選択的配置が極めて難しいためです。そのため、医農薬品などの高機能性分子合成分野では、残された課題と認識されており、新しい反応方法論の開発が望まれていました。

 大学院創成科学研究科(工学系学域)応用化学分野 西形孝司 教授(若手先進)らは、銅触媒と炭酸セシウムを組み合わせることで、炭素周りの4つ目の置換基としてアルキニル基(炭素-炭素三重結合)を光学活性ハロゲン基質に対して立体特異的に導入することに成功しました。開発した立体特異的クロスカップリング反応により、医農薬品の合成中間体として有用な炭素-炭素三重結合を持つ第四級炭素中心を効率的に合成できるようになります。この研究成果は、アルキニル化研究分野に大きなブレークスルーを与えただけでなく、新しい光学活性有用物質の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、令和4年8月8日(月曜日)午前8時00分(EDT/米国東部標準時)アメリカ化学会会誌『ACS Catalysis』に掲載されました。

図:開発したアルキニル化反応(Cu:銅触媒、Br:臭素)

研究の詳細はこちらを御参照下さい

発表論文の情報
タイトル: Carboxamide-directed Stereospecific Couplings of Chiral tertiary AlkylHalides with Terminal Alkynes
著者名 : Akagawa, Hiroki ; Tsuchiya, Naoki ; Morinaga, Asuka; Katayama, Yu;Sumimoto, Michinori; NISHIKATA, Takashi
掲載雑誌: ACS Catalysis (IF=13.7)
掲載日時: 令和4年8月8日(月曜日)午前8時00分(EDT/米国東部標準時)
DOI   : 10.1021/acscatal.2c02433

迅速かつ簡易的な外来魚調査にむけた環境DNAチップの開発

 山口大学大学院創成科学研究科流域環境学講座(日本工営共同研究講座)の中尾遼平准教授(特命)、赤松良久教授らの研究グループは、東洋鋼鈑株式会社および日本工営株式会社と共同で、外来魚の環境DNAを検出するための環境DNAチップを開発し、実際にダム貯水池の環境水から外来魚の環境DNAを検出することに成功しました。

研究成果のポイント
・医療用として用いられてきたDNAチップ技術を環境DNA分析へと応用し、3種類の外来魚を対象とした環境DNAチップを開発しました。
・開発した環境DNAチップを5つのダム貯水池に適用し、それぞれのダム貯水池の環境水から外来魚の環境DNAを検出することに成功しました。
・本研究の成果は、迅速かつ簡易的に外来魚の分布情報を集め、継続的な外来魚調査およびその駆除活動に貢献できる技術となり得ることを示しました。

研究成果の概要
山口大学大学院創成科学研究科流域環境学講座(日本工営共同研究講座)の中尾遼平准教授(特命)、赤松良久教授のグループは、東洋鋼鈑株式会社および日本工営株式会社と共同で、外来魚の環境DNAを検出するための環境DNAチップを開発し、実際にダム貯水池の環境水から外来魚の環境DNAを検出することに成功しました。また、本研究の技術は、1枚の環境DNAチップを使うだけで複数の対象種を同時に検出できることから、外来魚調査のための迅速かつ簡易的な手法として利用できることが示されました。 本研究の成果は、国際学術誌「Landscape and Ecological Engineering」電子版の特集号「Environmental DNA as a Practical Tool for Aquatic Conservation and Restoration」に2022年6月10日に掲載されました。
研究成果のプレスリリースはこちら

環境DNAチップ分析の概略図
発表論文の情報
タイトル: Development of environmental DNA chip for monitoring the invasive alien fishes in dam reservoirs
著者  : 中尾遼平(山口大学)、宮田亮(東洋鋼鈑株式会社)、中村憲章(東洋鋼鈑株式会社)、村松万里江(東洋鋼鈑株式会社)、岡村浩(東洋鋼鈑株式会社)、今村史(日本工営株式会社)、赤松良久(山口大学)
掲載雑誌: Landscape and Ecological Engineering
DOI   : https://doi.org/10.1007/s11355-022-00513-x
公表日 : 2022年6月10日8時(日本時間)

謝辞
本研究は、以下の研究助成を受けて実施されました。
・WEC応用生態研究助成(2019-03)

地球深部における水/水素の循環メカニズムに新たな知見:アルミニウムを含有した高密度水酸化マグネシウム珪酸塩の安定性と単結晶構造物性を解明

創成科学研究科工学系学域応用化学分野の中塚晃彦准教授は、熊本大学大学院先端科学研究部の吉朝朗教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の大川真紀雄助教、岡山大学の伊藤英司名誉教授(研究当時、岡山大学地球物質科学研究センター教授)との共同研究において、D相と呼ばれる高密度水酸化マグネシウム珪酸塩にアルミニウム(Al)を導入することによって、水素含有量が増加するとともに、その安定領域がこれまで考えられてきたよりも高温高圧領域にまで劇的に拡張することを明らかにしました。さらに、本高圧実験で得られたAlを含有したD相(Al-D相)の単結晶試料を用いた精密なX線結晶構造解析から、Alと水素の導入メカニズムとそれによる安定性向上のメカニズムを結晶化学的見地から明らかにしました。この結果から、下部マントルへ運ばれた含水素鉱物相の分解で放出された自由水と周囲のブリッジマナイトとの反応で生成したAl-D相が、地球深部での水/水素の循環メカニズムに重要な役割を果たしていると期待されます。この研究成果は、2022年3月4日にSpringer Nature社が発行する英国の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

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図1.(a)Al-D相の単結晶の走査型電子顕微鏡写真。(b)この単結晶を用いて決定したAl-D相の結晶構造。マグネシウム(Mg)が中心にある配位多面体※4(M-八面体)と珪素(Si)/アルミニウム(Al)/マグネシウム(Mg)が中心にある配位多面体(S-八面体)の結合を描いている
図2.
本研究で推察されたMgSiO3系(灰色の点線)とAl2O3成分を含有したMgSiO3系(青色の実線)の水の飽和条件下での可能な安定関係。D:D相,Brg:MgSiO3ブリッジマナイト,Al-D:Al-D相,Al-Brg:Al含有MgSiO3ブリッジマナイト,Liq:液相,MSH:残存したMgO-SiO2-H2O成分。( )付きと( )無しの安定領域は、それぞれAl2O3成分を含有していない系と含有している系の領域を示している。IW(Ito & Weidner, Geophys. Res. Lett. 13, 464–466, 1986)およびOh(Ohtani et al., Phys. Chem. Miner. 27, 533–544, 2000)は文献から引用したデータである。赤色の印、印、印は、それぞれ本研究での高圧結晶成長実験における最高保持温度、急冷温度、徐冷パスを示している。青色の長い点線矢印と短い点線矢印は、それぞれD+MSHとBrg+H2O間の相境界および液相線がAl2O3成分を含有することによって高温側へ移動することを示している。

研究のポイント

◆地球深部における水/水素の貯蔵庫の一つと期待されるD相と呼ばれる高密度水酸化マグネシウム珪酸塩にアルミニウムを導入することによって、水素含有量が増加するとともに、その安定領域がこれまで考えられてきたよりも高温高圧領域にまで拡張することを明らかにしました。
◆この安定性の向上に、珪素をアルミニウムが置換することで生じる陽イオン間斥力の緩和効果が大きく影響していることを明らかにしました。
◆沈み込む海洋プレート(スラブ)によって下部マントルへ運ばれた含水素鉱物相の分解で放出された自由水と周囲のブリッジマナイトとの反応で生成したアルミニウムを含有したD相が、地球深部での水/水素の循環メカニズムに重要な役割を果たしていると期待されます。

【論文情報】

題目: Aluminous hydrous magnesium silicate as a lower-mantle hydrogen reservoira role as an agentfor material transport
著者: Akihiko Nakatsuka, Akira Yoshiasa, Makio Ohkawa & Eiji Ito
雑誌: Scientific Reports
DOI : https://doi.org/10.1038/s41598-022-07007-8

【謝辞】

本研究は、以下の科学研究費補助金の支援の下で行われました。ここに謝意を表します。
・基盤研究(C)(課題番号:15K05344)「温度・圧力を変数とした鉱物結晶化学:原子変位から読み解く地球内部の弾性異方性」
・基盤研究(A)(課題番号:22244068)「衝撃圧縮・超高温高圧下での融体・惑星地球物質の日本先導的局所構造研究」
・若手研究(B)(課題番号:15740317)「水素を含む下部マントルペロブスカイト相の安定性と電気伝導性に関する構造科学的研究」
・奨励研究(A)(課題番号:12740299)「下部マントル物質MgSiO3-Al2O3系ペロブスカイト固溶体の構造化学」

有機フッ素化合物を合成する簡便な手法を開発~医農薬分野への展開に期待~

創成科学研究科工学系学域応用化学分野の川本拓治助教、川端崇裕さん(博士前期課程1年)、上村明男教授らの研究グループは、医農薬品において重要な官能基の一つであるトリフルオロメチル(CF3)基を特定の位置に導入する手法を新たに開発しました。例えば、ビニルトリフラートとアルケンから、ケトンのγ位にトリフルオロメチル基を有する化合物を簡便かつ効率的に合成できることを見いだしました。また、アリールアルキンとトリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)によるビニルトリフラートの合成、続くワンポットラジカル反応により効率的に合成できることを見いだしました。今回見いだした反応を複雑な化合物に応用することで、これまでにない新しい含フッ素化合物を合成できる可能性があります。

 なお、本研究成果の詳細は、2021年12月17日にアメリカ化学会の学術誌「Organic Letters」で掲載されました。

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今後の展開

 得られた化合物の生物活性の評価を実施する予定です。また、本手法は特殊な実験操作を必要としないため、医農薬や機能性材料など様々な分野での応用が期待できます。

謝辞

 本研究の一部は日本学術振興会科学研究費若手研究、旭硝子財団、およびやまぎん地域企業助成基金、京都技術科学センター、日揮・実吉奨学会の助成を受けて実施しました。

論文情報

論 文 名:Vicinal Difunctionalization of Alkenes Using Vinyl Triflates Leading to γ‐Trifluoromethylated Ketones
著  者:Takuji Kawamoto, Kawabata Takahiro, Kohki Noguchi, and Akio Kamimura
掲 載 誌:Organic Letters
D O I :10.1021/acs.orglett.1c03988

下部マントルの不均一性を解く鍵:沈み込みスラブを起源とするブリッジマナイトの単結晶構造物性が明らかに!

山口大学大学院創成科学研究科(工学系学域)応用化学分野の中塚晃彦准教授は、高輝度光科学研究センターの福井宏之研究員(研究当時、兵庫県立大助教)および平尾直久主幹研究員、東北大学学際科学フロンティア研究所の鎌田誠司助教(研究当時)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の大川真紀雄助教、東北大学金属材料研究所の杉山和正教授、岡山大学惑星物質研究所の芳野極教授との共同研究において、鉄(Fe)とアルミニウム(Al)の成分に富む中央海嶺玄武岩(MORB)組成から生成されるブリッジマナイト(下部マントルの主要鉱物)の単結晶合成に成功しました。この単結晶試料に対するX線精密構造解析と放射光メスバウア分光測定により、下部マントルへ沈み込んだ海洋プレート(スラブ)のうち最上部を構成するMORBすなわち海洋地殻で生成されるブリッジマナイトでは、電荷カップル置換というメカニズムのみによって、FeとAlが結晶構造中へ導入されることを明らかにしました。下部マントルの化学組成の不均一性を解く鍵を握るMORB組成から生成したブリッジマナイトの単結晶構造物性を明らかにしたのは、本研究が世界で初めてです。この研究成果は、2021年11月24日に英国の科学雑誌Natureの姉妹誌である「Scientific Reports」に掲載されました。

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ブリッジマナイトの結晶構造。珪素/アルミニウムが中心に存在する配位多面体(八面体)の結合を描いている。

ソフトウェアATOMS (http://www.shapesoftware.com/00_Website_Homepage/)で作成した。

発表のポイント
◆下部マントルへ沈み込んだ海洋地殻で生成する鉄成分とアルミニウム成分に富んだブリッジマナイトにおける鉄とアルミニウムの導入メカニズムは、それらがマグネシウム・珪素と置き換わる「電荷カップル置換」だけに支配されていることを明らかにしました。
◆歪んだペロブスカイト型構造をもつブリッジマナイトが、下部マントル深部に行くにつれて、他のペロブスカイト型構造へ相転移する可能性は否定できないことを示しました。
◆弾性波速度の一つであるバルク音速を結晶学的アプローチから見積る方法論も提案しました。この手法は下部マントル中での地震波特性を知る有力な手掛かりになると期待されます。

論文情報

題 目:Incorporation mechanism of Fe and Al into bridgmanite in a subducting midocean ridge basalt and its crystal chemistry
著 者:Akihiko Nakatsuka, Hiroshi Fukui, Seiji Kamada, Naohisa Hirao, Makio Ohkawa, Kazumasa Sugiyama & Takashi Yoshino
雑 誌:Scientific Reports
掲載日時:2021年11月24日

謝辞

本研究は、以下の科学研究費補助金の支援の下で行われました。
・基盤研究(B)(課題番号:19H02004)
「X線非弾性散乱法による下部マントル条件での含鉄ブリッジマナイトの結晶弾性定数測定」
・基盤研究(S)(課題番号:15H05748)「地球核の最適モデルの創出」
・基盤研究(C)(課題番号:15K05344)
「温度・圧力を変数とした鉱物結晶化学:原子変位から読み解く地球内部の弾性異方性」
・特別推進研究(課題番号:22000002)「地球惑星中心領域の超高圧物質科学」
また、本研究は、以下の東北大学金属材料研究所共同研究プログラムGIMRTの支援の下でも行われました。
・一般研究(課題番号:15K0054)
「単結晶X線精密構造解析によるポストペロブスカイト型CaIrO3の弾性特性と構造安定性」
・一般研究(課題番号:15K0015)
「スピネル型およびペロブスカイト型化合物の精密構造解析と物性発現機構」
ここに謝意を表します。

簡便な手法で医農薬に有用なトリフルオロメチル基が置換したエナミドの合成法を開発

創成科学研究科工学系学域応用化学分野の川本拓治助教、井川恵祐さん(博士前期課程2年)、上村明男教授らのグループは、イミンに対して無水トリフルオロメタンスルホン酸と塩基および触媒量のラジカル開始剤を作用させると効率よくトリフルオロメチル基が置換したエナミドが得られることを見い出しました。

フッ素原子の特異的な性質により、フッ素を含む有機化合物は医薬品や農薬において重要な役割を担っています。最近、川本助教らのグループはビニルトリフラートに対してラジカル開始剤として作用させると、医農薬において有用な炭素-CF3結合を有する化合物を合成できることを報告しています。本研究ではその反応論を利用し、トリフルオロメチル基が置換したエナミドが効率よく得られることを見い出しました。エナミドは農薬などに含まれる骨格であり、トリフルオロメチル基との相乗効果により様々な分野への応用が期待されます。

本研究成果は『The Journal of Organic Chemistry』に掲載されました。

論文情報

論文名 : One-pot Synthesis of CF3-substituted Vinyl Trifluoromethanesulfonamides from Imines and Trifluoromethanesulfonic Anhydride
著 者 : Takuji Kawamoto, Keisuke Ikawa, Akio Kamimura
掲載誌 : J. Org. Chem. 2021.
U R L : https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.1c01969

簡便な手法で医農薬に有用なビニルピリドン骨格を構築~従来の常識を覆す反応技術

創成科学研究科工学系学域応用化学分野の川本拓治助教、池田瞬也大学院生、上村明男教授らのグループは、無水トリフルオロメタンスルホン酸とケトンに対して2当量以上の2-フルオロピリジンを作用させ、最後にNaOH水溶液で処理を行うと効率よくビニルピリドンが得られること見いだしました。

従来、無水トリフルオロメタンスルホン酸とケトンに対して嵩高いピリジンなどの塩基を作用させると、ビニルトリフラートが得られることは古くから知られています。ビニルトリフラートは遷移金属触媒反応における求電子剤として広く利用されています。最近、川本助教らのグループはビニルトリフラートに対してラジカル開始剤として作用させると、医農薬において有用な炭素-CF3結合を有する化合物を合成できることを報告しています。その研究の過程において、ビニルトリフラート合成の塩基として2-フルオロピリジンを用いると、ビニルトリフラート以外の化合物がわずかに得られることを見いだしました。2-フルオロピリジンの使用量を増加させると、ビニルピリドン骨格を効率的に合成することができることがわかりました。使用量を変化するだけで、生成物が変化する本技術は非常に画期的です。なお、得られたビニルピリドンは医農薬への応用が期待されます。

本研究成果は『The Journal of Organic Chemistry』に掲載されました。

論文情報

論文名 : Synthesis of 1-(1-Arylvinyl)pyridin-2(1H)-ones from Ketones and 2-Fluoropyridine
著 者 : Takuji Kawamoto, Shunya Ikeda, Akio Kamimura
掲載誌 : J. Org. Chem. 2021
U R L : https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.1c01615

オレフィン異性体混合物を精製することなく選択的反応に適用可能な反応法開発:単一のオレフィン生成物を与える簡便な反応技術

創成科学研究科応用化学分野の西形孝司教授(若手先進教授※)らは、鉄触媒存在下、立体的に大きな第三級アルキル臭化物(1)と異性体が混合した内部オレフィン(2)を鉄触媒存在下で反応させると、対応する生成物(3)を単一の異性体(E体)として得ることに成功しました。

従来、精密な有機合成反応を実施しようとする場合、使用する原料の異性体をきちんとどちらか一方に精製しておく必要がありました。今回使用した原料である内部オレフィン(2)は、EとZの2種類の異性体が存在します。異性体はこの原料を合成する過程で生じますが、それらを単一のものに精製することは非常に困難でした。

本研究で開発された鉄触媒反応は、反応機構の詳細は不明ですが、(2)がどのような異性体の混合物であっても単一の生成物を与えることがわかりました。この画期的な特徴を持つ本反応は、今後、様々な炭素-炭素二重結合を持つ有機分子合成への応用が期待されます。本研究成果は『ACS Catalysis』(IF=13.084)に掲載されました。

論文情報

論文名 : Iron-catalyzed Stereo-convergent tertiary alkylations of E- and Z-mixed internal olefins with functionalized tertiary alkyl halides
著 者 : Yusei Nakashima, Junki Matsumoto, Takashi Nishikata*
掲載誌 : ACS Catalysis, 2021, 11, 11526-11531.
U R L : https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.1c03009

※若手先進教授(Young Advanced Professor)とは、山口大学が旗手として期待する研究者に付与する名称です。
山口大学が注力する「研究拠点群」である「生命分子インターネットワークセンター」の西形孝司センター長もそのひとりです。

水系リチウムイオン電池実用化のカギを握る濃厚リチウム塩水溶液の液体構造を解明

大学院創成科学研究科(工学系学域)の藤井健太教授と、新潟大学自然科学系(理学部)の梅林泰宏教授、東京理科大学理工学部の渡辺日香里助教(研究当時、新潟大学大学院自然科学研究科博士後期課程在学)、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の大友季哉教授・池田一貴特別准教授らの研究グループは、山形大学、横浜国立大学の研究グループと共同で、新たにリチウムイオン電池(LIB)電解液として期待されている濃厚リチウム塩水溶液の液体構造を分子レベルで明らかにすることに成功しました。従来のLIBに用いられてきた有機溶媒に代わって、水を溶媒に用いた電解液は、安価で安全性の高いLIBの実現につながります。今回の成果は、水溶液を用いたリチウムイオン二次電池(水系リチウムイオン電池)の開発を一歩前進させました。

本研究成果をまとめた論文は、2021年7月1日、アメリカ化学会の物理化学誌「Journal of Physical Chemistry B」でオンライン公開されました。また、同年7月15日発行の同紙に掲載されるとともに、Supplementary Journal Coverに選定されています。

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謝辞

本研究は、JSPS科学研究費補助金 基盤研究(No. 18H01994、18H03926、20H05663)、特別研究員奨励費(No. 17J02361、20J14822)および科学技術振興機構先端的低炭素技術開発-次世代蓄電池(ALCA-SPRING)の助成を受けて実施されたものです。

論文情報

論文題目:Local Structure of Li+ in Superconcentrated Aqueous LiTFSA Solutions
著者:Hikari Watanabe1, Nana Arai, Erika Nozaki, Jihae Han, Kenta Fujii, Kazutaka Ikeda, Toshiya Otomo, Kazuhide Ueno, Kaoru Dokko, Masayoshi Watanabe, Yasuo Kameda, Yasuhiro Umebayashi
掲載誌:Journal of Physical Chemistry B 2021, 125, 27, 7477-7484.
DOI:10.1021/acs.jpcb.1c04693

非貴金属触媒を使って常温でアンモニアを窒素と水素に変換-アンモニアのエネルギー利用によってカーボンニュートラルに貢献-

大学院創成科学研究科名木田賢治さん(令和3年3月博士前期課程修了)、湯原良基さん(博士前期課程1年)、中山雅晴教授(応用化学分野)の研究グループは、片山 祐助教(応用化学分野)、藤井健太教授(応用化学分野)らの研究グループと共同で、アンモニアの電気化学的触媒酸化において、有害な窒素酸化物(NO3-、NO2-など)を発生せず、無害な窒素のみを生成する非貴金属触媒の開発に成功しました。

本研究成果は、2021年5月27日にアメリカ化学会誌「Applied Materials & Interfaces」のオンライン版で公開され、表紙絵(Supplementary cover)にも選定されました。

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概要

アンモニアは肥料を始めとする化学原料として世界中で使われてきましたが、最近、エネルギー分野での利用が注目されています(経済産業省資源エネルギー庁ホームページより)。その理由の一つは、アンモニアがカーボンニュートラルを実現するための切り札である水素の「キャリア(輸送媒体)」となる可能性があるからです。アンモニア(NH3)は分子中に17.8wt%もの水素を蓄えています。水素は燃焼時にCO2を発生しないクリーンな燃料ですが、常温・常圧で気体であり、液化するためには極低温(-253℃)が必要です。このため、水素を安全かつ大量に貯蔵・輸送することは困難です。一方、アンモニアは液化が容易なことから、すでに液化アンモニアとして広く利用されており、貯蔵・輸送技術や安全対策は確立されています。そこで、水素をアンモニアの形でいったん貯蔵・輸送し、利用する場所で水素に変換する方法が注目されています。もちろん、水素に変換する工程でCO2や有害物質を出してしまっては意味がありません。

再生可能エネルギー由来の電力を使って、アンモニアを水素と窒素に分解できれば、ゼロエミッション[1]が達成されることになります。アンモニアの電気分解では陰極で水素が発生し[2]、陽極でアンモニアが酸化されます[3]。白金系触媒は電気化学的アンモニア酸化に対して高い活性をもつことが知られていますが、高価である上、有害な含酸素窒素種(NO3-、NO2-など)が多く生成するという問題がありました。本研究グループは、積層二酸化マンガンの1ナノメートル程度の層間にニッケルイオンと銅イオンを同居させ、アンモニア含有水を電気分解したところ、100%に近いファラデー効率[4]で無害な窒素に変換されることを発見しました。

図1.開発した触媒の構造
図2.アンモニア存在下、非存在での各触媒の電流応答
図3.※表紙デザイン(Supplementary cover)、片山助教作成

用語の説明

[1] ゼロエミッション 廃棄物を一切出さない資源循環型のシステム
[2] 水素発生反応 2H2O + 2e- → H2 + 2OH-
[3] アンモニア酸化反応 2NH3 + 6OH- → N2 + 6H2O + 6e-
[4] ファラデー効率 電気分解に要した全電気量と物質の生成に寄与した電気量との割合

謝辞

本研究は日本学術振興会、科学研究費補助金基盤研究(B)の助成を受けて実施しました。

論文情報

論文題目:Ni- and Cu-co-intercalated Layered Manganese Oxide for Highly Efficient Electro-oxidation of Ammonia Selective to Nitrogen
著者:Kenji Nagita, Yoshiki Yuhara, Kenta Fujii, Yu Katayama, Masaharu Nakayama*
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
DOI:10.1021/acsami.1c04422

環境DNA分析によってアユの産卵実態の詳細が明らかに-未発見の重要産卵場所を発見 新しい資源保全・管理へ-

大学院創成科学研究科社会建設工学分野の赤松良久教授(若手先進教授※・山口大学環境DNA研究センター長)、中尾遼平特命准教授、宮園誠二特命助教、齋藤稔特命助教と福岡工業大学社会環境学科の乾隆帝准教授らの研究チームは島根県の高津川におけるアユの生息・産卵の実態を2年間にわたって「環境DNA分析」という手法で調べました。その結果、これまで知られていなかった高津川のアユの重要な産卵場候補地を発見するとともに、産卵期の始まり・終わりや、年による産卵場利用の違いなどを明らかにしました。高津川流域にとって重要な経済・観光資源であるアユですが近年の漁獲量は大幅に減少しています。
「環境DNA分析」を用いることで、従来の採集や目視調査では難しかった、大河川におけるアユの動態や産卵状況を簡易・迅速に把握できる可能性が広がり、様々な河川において、その年のアユの生息状況に合わせた産卵場の保全や禁漁期間の設定など、新しい資源保全・管理の形を目指すことも可能になります。

本研究の成果をまとめた論文はオンラインジャーナル「frontiers in Ecology and Evolution」に掲載されました。

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山口大学環境DNA研究センターwebサイト
※若手先進教授(Young Advanced Professor)とは、山口大学が旗手として期待する研究者に付与する名称です。

論文の詳細情報

タイトル:Spatiotemporal Changes of the Environmental DNA Concentrations of Amphidromous Fish Plecoglossus altivelis altivelis in the Spawning Grounds in the Takatsu River, Western Japan
著者名:Ryutei Inui, Yoshihisa Akamatsu, Takanori Kono, Minoru Saito, Seiji Miyazono, Ryohei Nakao
掲載誌:frontiers in Ecology and Evolution
DOI:10.3389/fevo.2021.622149

海水電解において塩素を発生しない非貴金属触媒を開発-海水と再生可能エネルギーによって水素社会実現に貢献-

大学院創成科学研究科 村上 愛さん(博士前期課程2年)、中山 雅晴教授(応用化学分野)らの研究グループは、大学院創成科学研究科 恒川 舜さん(博士前期課程1年)、吉田 真明准教授(応用化学分野)らの研究グループと共同で、海水の電気分解において、毒性・腐食性の塩素ガスを発生せず、無害な酸素とエネルギーキャリアである水素のみを生成する触媒の開発に成功しました。

本研究成果は、2021年5月14日にアメリカ化学会誌「ACS Catalysis」にオンライン掲載されました。

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概要

化石燃料の枯渇や気候変動に対する懸念から、カーボンニュートラルの実現は我が国だけでなく、世界全体にとっての喫緊の課題になっています。その鍵を握っているのが、エネルギーキャリアである水素の利用拡大です。水素はエネルギーとして利用する際、CO2を排出しない理想の燃料ですが、現在の主要技術では、水素を製造する過程で大量の化石燃料を使用しています。これに対して、水の電気分解(2H2O→2H2+O2)による水素製造はCO2を発生しない理想のプロセスであり、電気分解の電力源に再生可能エネルギー(太陽光、風力など)を使えば、全工程でCO2を排出しないだけでなく、間欠性の再生可能エネルギーを水素に変換して貯蔵することにもなります。現在、水の電気分解によって水素を製造する技術として、アルカリ水電解[1]、固体高分子型水電解[2]がありますが、どちらも「真水」が必要なため、水電解が大規模導入された場合は、いずれ「枯渇」という問題に直面することになります。そこで、本研究グループは地球上の水の97%、すなわち、ほぼ無尽蔵に存在する海水の電気分解によって水素を製造する研究に着目しました。海水は高濃度の塩を含む「天然の電解質」であるため、アルカリ水電解のように電解質を添加する必要はありません。

しかしながら、海水を一般的な電極(白金、イリジウム酸化物など)を使って電気分解すると、陰極からは水素ガスが、陽極からは塩素ガスが発生します。塩素ガスは毒性と腐食性を有するため、特別な設備・装置が無いと取り扱えません。したがって、水素を製造する目的では、対極では塩素ではなく、無害な酸素が発生する方が好都合です。上述のとおり、塩素ガスが優先的に発生する理由は、塩化物イオンの酸化による塩素発生反応[3]が、水の酸化による酸素発生反応[4]よりも速く起こるためです。従来、海水電解によって酸素のみを発生させる方法として、(1)海水にアルカリを添加する方法、あるいは(2)触媒の上に塩化物イオンを排除する層を組み合わせる方法が提案されていました。本研究グループは、このどちらの方法にも頼らず、単一物質(触媒)の特異な反応選択性によって塩素を出さない海水電解に成功しました。

図1.開発した触媒の構造
図2.今回開発した触媒および一般的な触媒を使って塩化ナトリウム水溶液を電気分解したときの酸素発生および塩素発生のファラデー効率.
電解液 0.5 M NaCl、電解時の電流 10 mA/cm2.

用語の説明

[1] アルカリ水電解 水酸化カリウム(KOH)を水に溶かした強アルカリの液に電流を流すことにより、陰極で水素、陽極で酸素を生成する電解方式
[2] 固体高分子型水電解 固体高分子電解質膜の両面に触媒電極を塗布し、水を供給しながら両極間に電圧を印加することにより、水素と酸素を生成する電解方式
[3] 塩素発生反応 2Cl- → Cl2 + 2e-で表される反応
[4] 酸素発生反応 2H2O → O2 + 4H+ +4e-で表される反応(熱力学的には塩素発生反応よりも有利だが、4電子反応であるため、2電子反応である塩素発生反応よりも遅い)

謝辞

本研究は日本学術振興会、科学研究費補助金基盤研究(B)「積層二酸化マンガンの酸素欠陥操作による塩素フリー海水電解技術の開拓(20H02844)」の助成を受けて実施しました。

論文情報

論文題目:Selective Catalyst for Oxygen Evolution in Neutral Brine Electrolysis: Oxygen-Deficient ManganeseOxide Film
著  者:Hikaru Abe, Ai Murakami, Shun Tsunekawa, Takuya Okada, Toru Wakabayashi, Masaaki Yoshida, Masaharu Nakayama*
掲 載 誌:ACS Catalysis
D O I :10.1021/acscatal.0c05496

第四級炭素を持つ1,4-ジカルボニル類の合成を実現:
有機触媒と遷移金属触媒を組み合わせるハイブリッド触媒系が鍵

山口大学大学院創成科学研究科応用化学分野の西形孝司教授(若手先進教授※)、平田剛輝助教(特命)、本学大学院生の黒瀬彩子さんと石田優斗さんと共に、有機触媒と遷移金属触媒を組み合わせることでケトン誘導体のα位を第三級アルキル化し、立体的にかさ高い第四級炭素を持つ1,4-ジカルボニル類の効率的な合成に成功しました。従来、1,4-ジカルボニル類は、エノラートカップリングやハロゲン化アルキルとエノラートとの求核置換反応で合成されていました。しかし、この手法では、かさ高い第四級炭素を合成することは非常に困難でした。この原因は、エノラートと立体的に反応点が込み入った構造である第三級アルキル反応剤の活性が非常に低いためでした。そこで、当該グループはピロリジン触媒でケトンをエナミンへと活性化し、このエナミンの炭素―炭素二重結合に対して、ハロカルボニルと銅触媒から生成した第三級アルキルラジカルを付加させる手法を開発することで、問題の解決を果たしました。本手法により、様々な第四級炭素を持つ立体的にかさ高い1,4-ジカルボニル類を合成することが実現しました。

この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=12.257)に掲載されました。

論文情報

雑誌名:Angewandte Chemie, International Edition, 2021, Early View.
論文名:Direct α-Tertiary Alkylations of Ketones in a Combined Copper–Organocatalyst System
著 者:Ayako Kurose, Yuto Ishida, Goki Hirata, and Takashi Nishikata*(*責任著者)
DOI:10.1002/anie.202016051

※若手先進教授(Young Advanced Professor)とは、山口大学が旗手として期待する研究者に付与する名称です。山口大学が注力する「研究拠点群」である「生命分子インターネットワークセンター」の西形孝司センター長もそのひとりです。

白金のスピンホール効果を大幅に向上 ― 次世代MRAMや人工知能デバイス開発への道 ―

大学院創成科学研究科(工学系学域)の浅田裕法教授を含む九州工業大学、山口大学、Nanyang Technological University(シンガポール)、Inter University Accelerator Center(インド)の研究グループ(研究代表者:九州工業大学大学院情報工学研究院 福間康裕教授)は、白金薄膜中に硫黄イオンを注入することでスピンホール効果の大幅な向上に成功しました。これにより、今後、スピンホール効果からのスピン軌道トルクを利用した次世代磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)やスピン発振子を利用した人工知能デバイスの開発が進み、スマートフォンをはじめとする様々な情報機器の低消費電力化などが期待されます。

なお、この研究成果は、ドイツ科学雑誌「Advanced Quantum Technologies」(2020年12月3日)に掲載されました。また、2021年1月号の表紙として紹介されました。

ポイント

◆白金薄膜中に硫黄イオンを注入(5×1016 ion/cm2、12 keV)することで、電流・スピン流間相互変換効率を50%に向上
◆3つの異なる測定技術を利用して、発見した材料の電流・スピン流間相互変換効率を確認
◆磁性体層へと作用するスピン軌道トルクも大幅に向上し、発見した材料はスピントロニクス技術を利用した次世代のメモリや人工知能デバイスの応用に期待

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図1 スピントルク強磁性共鳴法によるスピン スピンホール効果の測定方法
図2 白金系材料にて報告されているホール角θSHと電気伝導度σxxの関係

論文の詳細情報

タイトル:Enhanced Spin Hall Effect in S‐Implanted Pt
著者名:Utkarsh Shashank, Rohit Medwal, Taiga Shibata, Razia Nongjai, Joseph Vimal Vas, Martial Duchamp, Kandasami Asokan, Rajdeep Singh Rawat, Hironori Asada, Surbhi Gupta, Yasuhiro Fukuma
雑誌:Advanced Quantum Technologies
DOI:10.1002/qute.202000112

謝辞

本研究は JSPS 科研費 18H01862、18H05953、19K21112 および日本板硝子材料工学助成会の助成を受けたものです。

立体的に大きな光学活性エーテル化合物の選択的な合成に成功

山口大学大学院創成科学研究科応用化学分野 西形孝司教授(若手先進)、関西学院大学理工学部 白川英二教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科 安倍学教授、鳥取大学大学院工学研究科 野上敏材教授、東京工業大学科学技術創成研究院 小池隆司助教らのグループは、炭酸セシウムを塩基とすることで第三級アルキルハロゲン化物(α-ブロモアミド化合物)とアルコールとの立体特異的求核置換反応によるエーテル化合物の合成に成功しました。従来、光学活性な第三級アルキルハロゲン化物を用いる求核置換反応は、その立体障害のため立体特異的反応は困難でした。開発した手法を利用すると、立体的に非常に大きくかつ光学活性な反応部位にアルコールを選択的に反応させることができます。1世紀以上にわたり課題として認識されていた「立体的に大きなアルキルハロゲン化物とアルコールの立体特異的な反応」を達成できた点が本研究のポイントです。

発表のポイント

◆1世紀以上前からの課題として認識されている、かさ高いエーテル結合の形成に成功しました。
◆光学活性第三級アルキルハロゲン化物を用いたアルコールによる立体特異的な求核置換反応を発見しました。
◆第三級アルキルハロゲン化物であるα-ブロモアミド化合物を塩基である炭酸セシウムとともに用いることが立体特異的反応の鍵であることを発見しました。

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開発した立体特異的エーテル化反応

今後の展開

今回開発した反応は、立体的に大きな光学活性エーテル化合物を自在に合成できる第一歩となる結果です。今後は、求核剤をアルコールからアミンへと変えることで光学活性な非天然型アミノ酸も合成できるように、反応系をさらに工夫していきます。

 本研究は、JSPS科研費挑戦的萌芽研究(18K19182)、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「アニオンラジカル制御が拓く革新的電子触媒系(研究代表者:白川英二(関西学院大学))」、公益財団法人内藤記念科学振興財団および公益財団法人徳山科学技術振興財団の助成を受けて実施したものです。

論文題目

題目:Chemistry of Tertiary Carbon Center in the Formation of Congested C−O Ether Bonds
著者:Goki Hirata, Kentarou Takeuchi, Yusuke Shimoharai, Michinori Sumimoto, Hazuki Kaizawa, Toshiki Nokami, Takashi Koike, Manabu Abe, Eiji Shirakawa, Takashi Nishikata
公表雑誌:Angewandte Chemie International Edition
公表日:2020年12月23日
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202010697

水を汲んで魚類の産卵をモニタリング!-放精による環境DNA濃度の急上昇から産卵行動の有無と規模を知る-

山口大学環境DNA研究センター 辻冴月(つじさつき)学術研究員と環境総合リサーチ(株)芝田直樹(しばたなおき)氏の研究グループは、2種のメダカを用いた水槽実験および野外調査によって、産卵行動によって放出された精子が水中の環境DNA濃度の一時的な急上昇を引き起こすことを明らかにしました。また、その増加量は放卵・放精を伴う産卵行動の回数のみに影響を受け、見せかけの産卵行動である偽産卵の回数は反映しないことが示されました。これらの結果は、環境DNA分析が生物の分布調査だけでなく、産卵調査にも有用な技術となり得ることを示唆しています。本成果は、2020年10月19日に国際学術誌「Environmental DNA」電子版、Special Issueに掲載されました。

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図.放精に起因する環境DNA濃度の急上昇

研究成果のポイント

●2種のメダカを用い、産卵行動によって放出された精子が繁殖期に水中の環境DNA濃度を急上昇させる主要因であることを実証しました。
●メダカの産卵時間帯の前後における環境DNA濃度の違いは、放卵・放精を伴う産卵行動の回数を反映することが示されました。
●各メダカの野外生息地においても、繁殖期にのみ産卵時間帯の後に環境DNA濃度の急上昇が観察されました。
●本研究の成果は、環境DNA分析が生物の分布調査だけでなく、今後は産卵調査にも有用な技術となり得ることを示唆しています。

論文発表の概要

研究論文名:Identifying spawning events in fish by observing a spike in environmental DNA concentration after spawning
著者:辻冴月(山口大学)、芝田直樹(環境総合リサーチ(株))
公表雑誌:Environmental DNA
公表日:10月19日(月曜日)

世界初、100%に近い量子収率で水を分解する光触媒を開発-収率低下要因を完全に抑える高活性な光触媒の設計指針-

大学院創成科学研究科(工学系学域)の酒多喜久教授を含む研究チームの論文がNature誌に掲載されました。

本研究は、信州大学先鋭材料研究所 高田 剛 特任教授、久富隆史 准教授、堂免一成 特別特任教授(併任、東京大学特別教授)、山口大学大学院創成科学研究科 酒多喜久 教授、東京大学大学院工学系研究科 柴田直哉 教授、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門 関 和彦 上級主任研究員らの研究グループが人工光合成化学プロセス技術組合との共同により、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素原料化機関化学品製造プロセス技術開発」事業の一環として行った成果です。 ここでの研究成果は、持続社会の水素製造において有効な技術の一つである光触媒による水分解反応において、光触媒により吸収された光を100%に近い効率(量子収率)で利用して水を水素と酸素に分解する光触媒を開発し、その動作原理を初めて実証したことです。

光触媒とした材料は異なる結晶面が露出したAlドープSrTiO3の微粒子に、水素生成点としてRh/Cr2O3を、酸素生成点としてCoOOHを、光励起により生じた電子と正孔が光触媒粒子内部に生じる電場によって異方的に移動することを利用して、それぞれを別々の結晶表面に選択的に析出させた材料です。この材料を光触媒として用いることにより、光照射により発生した電子と正孔が空間的に分離され、再結合することなく、ほぼ100%の効率で水分解反応を進行させることに成功しました。(図を参照)

本研究で用いたSrTiO3は近紫外光までしか利用できず、太陽光を利用するには限界がありますが、微粒子状の光触媒で水分解反応を高い量子収率で進行させるための明確な動作原理が実証されたことで、今後、本研究で得られた成果は太陽光の大部分を占める可視光を高効率で利用して水の分解反応を進行させることができる光触媒の開発に関して重要な知見を与える成果となります。

図 光触媒による水分解と今回開発した光触媒の概略図およびこの光触媒の光吸収特性とこれを用いて各波長の光で水分解反応を行った時の外部量子収率(照射光に対する反応効率)

研究の詳細はNEDOニュースリリースをご覧ください。

【論文情報】
 題目
 Photocatalytic water splitting with a quantum efficiency of almost unity
 著者
 Tsuyoshi Takata, Junzhe Jiang, Yoshihisa Sakata, Mamiko Nakabayashi, Naoya
 掲載誌
 Nature volume 581, page 411–414 (2020)
 DOI 10.1038/s41586-020-2278-9

立体的に込み入った部位へのシアノ化反応を開発―非天然アミノ酸ユニットを持つペプチド医薬への応用に期待

山口大学大学院創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授らと九州大学先導物質化学研究所の國信洋一郎教授らは、銅触媒存在下、炭素-臭素結合を持つカルボン酸誘導体基質に対して安定なシアン化亜鉛を用いた銅触媒シアノ化反応を発見しました。

シアノ基はアミノ基などの機能性官能基への変換が容易なため、有用物質合成、特にアミノ酸合成に不可欠な官能基です。これまでにイオン反応を用いる求核的シアノ化反応が開発されてきましたが、立体的に込み入った部位へのシアノ化は困難であるという欠点がありました。

本研究で開発されたシアノ化反応は、安定で比較的毒性の低いシアン化亜鉛を用いることが可能である点、そしてカルボン酸誘導体中のアミド結合に銅が配位することで立体的に込み入った反応部位でシアノ化が進行する点が画期的な特徴として挙げられます。また、ペプチド鎖を持つ基質に対してもシアノ化が進行することから、本反応を応用することで非天然アミノ酸ユニットを持つペプチドを合成可能であることも示しました。ペプチド医薬などへの応用が期待されます。

この研究成果は『the Journal of the American Chemical Society』(IF=14.695)に2020年1月15日に掲載されました。

Copper-Catalyzed Tertiary Alkylative Cyanation for the Synthesis of Cyanated Peptide Building Blocks
Miwa, Naoki ; Tanaka, Chihiro; Ishida, Syo; Hirata, Goki; Song, Jizhou; Torigoe, Takeru; Kuninobu, Yoichiro*; Nishikata, Takashi*
Journal of the American Chemical Society, 2020, asap. doi:10.1002/jasc.202006293

研究の詳細はこちらをご覧ください。

創成科学研究科応用化学分野の西形准教授が日本化学会欧文雑誌論文賞(BCSJ賞)を受賞しました~カチオン種とラジカル種の交互反応を利用~

創成科学研究科工学系学域応用化学分野の西形孝司准教授らが銅触媒存在下、複数の基質からラジカル種とカチオン種を交互に発生させ、それらを順序良く反応させることに成功しました。さらに、この研究成果が『 Bullentin of the Chemical Society of Japan 』に掲載され、日本化学会欧文雑誌論文賞(BCSJ賞)を受賞しました。

複雑な脂肪族分子は、医薬・天然物分子に含まれる重要な化合物です。しかしながら、炭素官能基を狙った位置で反応させることは非常に困難でした。今回、西形准教授らが成功した上記の技術により、非常に複雑な脂肪族分子を一回の反応で得ることが実現しました。この技術は今後、新規の脂肪族分子合成法として様々な分野への応用が期待されます。

Radical and Cation Crossover Reaction System Enables Synthesis of Complex Aliphatic Chains Possessing Functionalize Quaternary Carbons
Y. Murata, T. Shimada, T. Nishikata*,
Bullentin of the Chemical Society of Japan, 2019, 92, 1419-1429. (IF=4.431)

流域環境評価ツール開発の共同研究講座開設

国立大学法人山口大学と日本工営株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:有元 龍一、以下 日本工営)は、流域環境評価ツールとその活用手法の開発を目指して、山口大学に共同研究講座「流域環境学講座(日本工営共同研究講座)」を2019年8月1日から開設いたしました。

本講座は、山口大学、日本工営と共同で、環境DNA、安定同位体、AI、リモートセンシングといった先端技術を利用して、流域(河川、湖沼、沿岸域)における生物・物質の動態を把握し、水域の環境を評価する手法を開発することを目的として開設したものです。

降水が表流水となって集まりつつ流れる範囲全体を意味する「流域」において、河川、湖沼、沿岸域は人体における血管に近い役割を果たしています。したがって、流域という一つの生命集合体の健全性を河川、湖沼、沿岸の水に着目して診断することは、「安全な水とトイレを世界中に」、「気候変動に具体的な対策を」、「海の豊かさを守ろう」、「陸の豊かさを守ろう」というSDGs(持続可能な開発目標、全17項目)の4つの目標を達成することに大きく貢献すると考えられます。

今回、本講座を開設する山口大学の赤松研究室では、これまで流域における水・物質・生物の動態を把握するために、環境DNA、UAV・衛星リモートセンシング、安定同位体比といった様々な新技術を開発・導入してきた実績を有しています。一方で、日本工営ではゲリラ豪雨に代表される気候変動に関する検討や運用面を含めた施設の効果的な活用方法、豊かな自然を再生するための取り組み等、国内外における社会資本整備を通じて、時代の要請に応えてきました。

両者が共同で研究を実施することにより、流域環境学に関わるイノベーションの創出が期待されるとともに、それらを速やかに社会実装することを目指します。

■ 共同研究講座の概要 ・設置機関;国立大学法人山口大学
・講座名:流域環境学講座(日本工営共同研究講座)
・開講期間:2019年8月1日~2020年7月31日(1年間)
・担当教員:赤松 良久

土石流サイクルと切迫度による新しいリスク評価

山口大学大学院創成科学研究科の鈴木素之教授および同大学院博士後期課程の松木宏彰院生らの研究グループが、これまで困難とされてきた土石流の発生履歴の復元に成功し、大規模土石流のサイクルが明らかになりました。切迫度の高い渓流を識別することで減災対策の向上が期待されます。

豪雨災害の被災者から「昔、ここで災害が起きた話なんて聞いたことがない」「安全な場所だと思っていた」といった声を聴くことがあります。したがって、山際や川沿いに暮らす住民にとっては、その土地がどのように形成されたのか、過去にどのようなことが起こってきたのかを知っておくことは防災上有効です。そのため、災害の記録や教訓を掘り起こし、防災面でより生かすことが求められてきました。

また、これまで土石流のリスクは、地質、地形、降雨量などから評価されてきました。例えばマサ土からなる急傾斜地に降雨が続けば崩壊のリスクが高まると評価できます。しかしこの評価基準だけでは、全国の要対策箇所は膨大な数におよび、全箇所の対策には相当の時間を要してしまいます。それでは結果的に対策が後手に回りかねない事態が危惧されます。

たとえ地質・地形が類似の条件の斜面が複数あっても、そのなかから土石流災害がより切迫している斜面を識別する事ができれば、そこを優先して対策する事もできるでしょう。そのため斜面災害の切迫度評価方法の確立が求められてきました。

このたび鈴木教授および松木宏彰院生(復建調査設計株式会社)らは、 2014年8月20日の広島土砂災害域を広域的に調査し、炭素14法によって土石流の発生履歴の復元に成功しました。この地域では約150年から400年の間隔で、大規模な土石流が発生してきたことが明らかになりました。

これは長い期間のうちに渓流に土砂が堆積して、次の土石流が発生する条件となり、切迫度が高まったところに、豪雨がきっかけとなって土石流が発生してきたと考えられます。同様の大規模な土石流のサイクル性は、鈴木教授らによる2009年の山口県防府市の土石流災害域で初めて明らかにされましたが、同サイクル性が広島でも見つかったことで、上記のモデルが多くの地域に応用できる可能性が高まりました。

本成果によれば、土石流の発生履歴を調査し、直近の大規模土石流以降、長らく静穏である渓流ほど災害が切迫していると評価できます。

全国各地の斜面の土石流履歴を調査から周期を復元し、そこから次の災害の切迫度を評価し、優先して対策を行うことで、効率的かつ有効な減災対策につながると期待されます。

また、切迫度の高い斜面周囲に居住する方は、大雨の時には早めに避難することで、適切な対応による安全確保につながることが期待されます。

この研究成果は2月8日の松木宏彰院生の博士学位審査公聴会において、発表されました。

本件の詳細はこちらをご覧ください。[PDF:258KB]
研究内容のさらに詳しい説明はこちらをご覧ください。[PDF:3MB]

魚類のウロコのキラキラ光を外部磁場を変えることで制御 ―キラキラの元物質を疑似的なフォトニック結晶としてとらえて光干渉を解明―

生体内で光の屈折率を制御して光反射をうまくコントロールすることで、生存淘汰などに最適の“見え方”ができるよう生き物たちが工夫していることは、これまで多くの研究報告がなされてきました。光利用を可能にしている物質として第一の候補になっているものが、地球上全ての生物のDNAの成分でもある核酸塩基の1つ、グアニンです。しかし、肝心のこのグアニンが生物の体内で形成するグアニン結晶の特異な結晶構造などの物理化学的特性はよく理解されていませんでした。

国立大学法人広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所の岩坂正和教授、国立大学法人山口大学大学院創成科学研究科 工学系学域の浅田裕法教授らの研究チームは、魚をキラキラさせる原因である非常に小さい鏡(グアニン結晶板)を磁場で操作し、これまで謎に包まれていた魚の体表の強い輝きの説明に成功しました。このグアニン結晶板が単に光を反射するだけでなく、ある程度透明性も有することに着目し、水に囲まれた空間で鏡が周期的に配列することがキラキラを起こす本当の原因であることを明らかにしました。

これまで、われわれ人類は人工的に光を利用する工夫をいろいろと行ってきました。その一方で、自然界の生物も太陽光を上手に利用することはよく知られています。生物がつくる材料の機能をまねる技術は、バイオミメティクスと呼ばれる研究分野で最近盛んに開発されています。例えば、魚や昆虫などの動物が体表の色を体の一部の周期構造でうまく光を反射させてつくりだすことは、構造色として知られています。そこで生物が光を上手に使う様子を詳しく調べることで、疾病の影響を受ける細胞の活動を光で詳しく調べることができる新しい技術に結びつくのではないかと考えました。

今回、魚の体表にあるキラキラの原因物質であるグアニン結晶と呼ばれる材料に着目した理由は、この結晶が自然界での生存淘汰・生物進化の過程で選ばれた大変効率よく光を制御できる物質とみなされているからです。身近な自然・水族館などにおいても、魚の集団による光の強さや色あいのダイナミックな変化を、泳いでいる魚の集団の動きで見ることができます。この現象もヒントに、水中でのグアニン結晶の集まりを浮いた状態で磁場で制御し、光強度の変化が反射のみでなく光干渉とよばれる仕組みに依存することをつきとめました。

グアニン結晶板の厚みは100ナノメートル程度と非常に薄いため、医療用細胞イメージング技術の際の狭い空間での光制御に最適です。今回の報告では、たくさんのグアニン結晶板が水中に浮遊した状態に磁場をかけ2倍程度にまでキラキラを強めることができました。このグアニン結晶板を細胞の近くに手鏡のようにおけば、細胞から分泌される疾病の兆しをすばやく立体的にキラリと見つけることができそうです。今後、がんなどの病気の進行を迅速に調べる新しい方法に結びつくことが期待されます。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」研究領域(北山研一総括)の研究課題「魚のバイオリフレクターで創るバイオ・光デバイス融合技術の開発」の一環として広島大学の岩坂正和教授および山口大学の浅田裕法教授の共同研究で行われたものです。

本研究成果は、平成30年11月19日、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載されました。

【発表論文】
 著 者
 Masakazu Iwasaka* Hironori Asada * Corresponding author(責任著者)
 論文題目
 Floating photonic crystals utilizing magnetically aligned biogenic guanine platelets (磁場配向した生物由来グアニン結晶による浮遊型フォトニック結晶)
 掲載雑誌
 Scientific Reports
 DOI 10.1038/s41598-018-34866-x
 https://www.nature.com/articles/s41598-018-34866-x

研究結果の詳細はこちらをご覧ください。

ミツバチはどのようにして精緻な巣をつくるのか?–ミツロウの付着と掘削に着目したハニカム構造への学際的アプローチ–

ミツバチの巣に見られる精緻なハニカム構造は、耐久性と貯蔵性に優れていて、作製に必要な材料を少なくできます。ミツバチは、進化の過程でハニカム構造を作製する能力を獲得したと考えられています。しかし、そのような精緻な構造をミツバチがどのようにして作るのかは、これまで明らかではありませんでした。

山口大学大学院創成科学研究科工学系学域工学基礎分野の鳴海孝之講師は、神戸大学大学院医学研究科の本多久夫客員教授、関西学院大学理工学部数理科学科の大﨑浩一教授および同大学理工学研究科の上道賢太氏(博士課程後期課程在籍)と共同で、ミツバチの造巣に関するコンピュータシミュレーションモデル「付着・掘削モデル」の提案を行い、ミツバチが作る巣の初期構造の再現に成功しました。

精緻なミツバチの巣が、ミツバチによるミツロウの付着と掘削という単純な行動ルールに基づく活動によって作られうることを、本研究成果は示唆しています。

ミツバチの単純な行動原理が明らかになることで、構造物作製における可能性が広がります。例えば、ナノサイズのハニカム構造を作製するといった応用展開の可能性を秘めた研究成果といえるでしょう。

本研究成果は、平成30年10月25日、PLOS社が刊行するオープンアクセスジャーナルPLOS ONEに掲載されました。
DOI: 10.1371/journal.pone.0205353
LINK:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0205353

研究成果の詳細については、こちら[PDF:220KB]をご覧ください。

創成科学研究科の佐伯 隆教授が企業との共同研究の成果をもとに作成した『静的流体混合装置の混合性能評価方法』が日本工業規格(JIS)として制定(官報公示)されました

創成科学研究科循環環境工学分野の佐伯 隆教授はアイセル株式会社(大阪府八尾市)との共同研究で静的流体混合装置(スタティックミキサー)の開発を行っています。スタティックミキサーは導管内部に特殊な形状のエレメントを設置した構造で、配管に取り付けるだけで流体を混合できる装置です。従来の撹拌槽よりも省エネルギー・省スペースな混合装置として注目され、現在も様々な商品が開発されていますが、十分に混合できたかを評価する方法が規定されていませんでした。佐伯教授は蛍光顔料を含んだ注入流体をスタティックミキサー上流で供給し、下流の管断面でレーザーシート光を照射することによって、注入流体の広がりを観察する実験(図2)を行い、得られた可視化画像から混合性能を数値化して示す混合指標を提案しました。この評価方法の開発は、平成27年11月に経済産業省によって制定された標準化活用支援パートナーシップ制度(提案企業:アイセル㈱、パートナー機関:㈱池田泉州銀行)の後押しを受け、さらに、同省の日本工業標準調査会標準第一部会において、新市場創造型標準化制度の活用案件として採択され、平成28年6月に佐伯教授を委員長としたJIS原案作成委員が発足しました。一般財団法人日本規格協会(JSA)のもと、委員によるJISの作成が進められ、平成30年5月18日に経済産業省で行われた日本工業標準調査会産業機械技術専門委員会で審議の後、8月20日にJIS B 8702として官報公示されました。佐伯教授は、「中小企業との共同研究が発端となり、上記二つの制度を活用して制定されたJISとしては日本で初めてのものです。経産省が支援を進めている『とがった(優れた)技術であり新市場の創造又は拡大が見込まれる』研究として認められたもので、今後は国際標準(ISO)の可能性も検討する予定です」と話しています。

なお、一般財団法人日本規格協会(JSA)については、日本規格協会ホームページをご覧ください。

図1 出版発行されたJIS規格票
図2 混合性能の可視化実験装置
図3 産業機械技術専門委員会が行われた経済産業省別館前で
写真左が佐伯教授、右がアイセル㈱の望月氏(本学博士後期課程を修了)

環境に優しい化学~イオン液体でバイオマス由来の物質を有用物質に変換~

環境に優しい化学、グリーンケミストリーは、物質を合成する際に環境に負荷を与える物質をなるべく使用せず、また排出してもそれをできるだけ回収リサイクルすることを目指す化学として、今日その重要度は高まってきています。バイオマス由来の化学物質を有用物質に変換する反応はそのグリーン化学では重要な位置を占めますが、今回山口大学創成科学研究科の上村明男教授の研究グループは、イギリスのユニバシティーカレッジロンドン化学科のTom Sheppard博士とHelen Hailes教授らと、トウモロコシの非可食部分などから大量に入手可能なフルフラールを、グリーンな溶媒として知られているイオン液体を使って迅速にフタル酸誘導体に変換する反応を開発しました。フタル酸は樹脂材料としても利用されており、この変換反応によって植物由来の原料をプラスチックなどの有用な物質に変換できる方法となることが期待できます。

今回見いだした反応では、イオン液体[bmim][Cl]中でフルフラール誘導体であるフルフラールヒドラゾンをマレイミドと反応させることで、ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応と引き続く脱水芳香族化が一気に進行してフタルイミド[WU1]が高収率で合成できます。この反応はマイクロ波照射による120℃の加熱によって1時間で完了します。生成物の単離は抽出のほか再結晶によっても可能であり、簡便な単離生成も可能になりました。イオン液体はほぼ定量的に回収可能で、回収したイオン液体は再利用して同じ反応を数回繰り返して実現できることがわかりました。この研究によりバイオマスの有用利用とその変換反応に新しい方法を提供でき、今後のグリーン変換反応の展開に貢献するものと考えられます。

本研究は幕末から明治維新にかけて山口県とゆかりの深いイギリスロンドン大学(University College London)化学科との共同研究の成果です。研究を推進するために日本学術振興会の支援を得てUCLからValerija Kalarula博士が山口大学に博士研究員として来日して研究を推進しました。150年を経てChoshu-ファイブとは逆の旅程をたどって英国から日本に化学を発展させ研究者が来てくれたことは一段と感慨深いものがあります。

本研究はJSPS科研費JP17K19139およびJSPS外国人研究員欧米短期の助成を受けたものです。

この研究成果は『RSC Advances』に6月20日(水曜日)掲載されました。

DOI:10.1039/c8ra03895c

LINK:http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2018/ra/c8ra03895c#!divAbstract

かさ高い脂肪鎖を「鈴木-宮浦型カップリング反応」に適用することに成功-ハイブリッド触媒系の新提案-

山口大学大学院創成科学研究科工学系学域応用化学分野の西形孝司准教授と東京大学生産技術研究所砂田祐輔准教授らのグループは、1つの反応系で「有機金属種」と「ラジカル種」という2つの活性種を使用可能な“ハイブリッド触媒系”を開発し、炭素周りの4つ目の置換基としてアルケニル基を導入することに成功しました。今回の研究成果により、アルケニル基を持つ第四級炭素中心を効率的に合成できるようになります。この研究成果は、異なる2つの活性種を安定的に1つの反応系で使用可能にした初めての例であり、クロスカップリング研究分野に大きなブレークスルーを与えただけでなく、将来の高機能な有用物質合成の実用化につながることが期待されます。  

2010年ノーベル化学賞は、パラジウム触媒による鈴木-宮浦クロスカップリング反応が対象分野でした。この手法は、医農薬品や電子材料など様々な有用物質を得ることが可能です。しかし、大きな構造(かさ高い)を持つアルキル基(脂肪鎖)をクロスカップリング反応に適用することは難しく、特に、医農薬品の合成中間体として有用な第四級炭素中心の合成は極めて困難でした。炭素の周りには4つまで置換基を配置することが可能ですが、第四級炭素中心の合成に必要な最後の4つ目を配置しようとすると、先に配置された置換基のため反応点が立体的に非常に混み入ってしまい、特別に強い試薬がなければ反応が進行しません。これでは医農薬品などの高機能性分子を構築できず、有機合成上の残された課題でした。

この研究成果は『ACS Catalysis』(IF=11.384)に6月28日に掲載されました。(DOI: 10.1021/acscatal.8b01572)。

研究成果の詳細については、PDFファイル[PDF:328KB]をご覧ください。


図:開発した反応の概念図

カーボンナノチューブを有機色素で染めて使う新しい光触媒技術を開発

山口大学大学院創成科学研究科の三宅秀明助教と岡山大学大学院環境生命科学研究科の高口豊准教授、田嶋智之講師、村上範武大学院生らの共同研究グループは、カーボンナノチューブの内部空間に色素分子を封じ込めることで、光照射下において、色素増感水分解反応による水素製造が可能になることを世界で初めて確認しました。また、通常の光触媒では利用困難な赤色光(波長650 nm)照射下で水分解水素生成反応の活性を比較したところ、染色したカーボンナノチューブ光触媒の量子収率(1.4%)は、色素分子をもたないカーボンナノチューブ光触媒の量子収率(0.011%)に比べて、活性が120倍になることも確認されました。

これは、カーボンナノチューブを有機色素で染めることで、カーボンナノチューブ光触媒の活性波長が制御できることを示しています。これまでに例のない活性波長制御法として、太陽光と光触媒を利用した水分解によるCO2フリー水素製造法(人工光合成)の鍵技術となることで、本学が取り組んでいる国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成に貢献することが期待されます。

この研究成果は『Journal of American Chemical Society』(IF=13.858)に3月5日付でオンライン掲載されました(doi:10.1021/jacs.7b12845)

研究の詳細はこちらをご覧ください。

山口大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)との国際共著論文 選択的フッ素化に関する最近の動向を発表

創成科学研究科工学系学域応用化学分野の西形孝司准教授とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)化学科Tom Sheppard博士(Reader in Organic Chemistry)らが論文としてまとめた、選択的フッ素化に関する最近の動向がTetrahedron Letters誌のDigest paper(招待)に掲載されました。

フッ素はその特異な性質のため有用物質に不可欠な元素であり、例えば医農薬品の実に20~30%にフッ素が含まれています。そのため、分子の効率的かつ選択的フッ素化反応開発は有機合成における最重要課題の一つです。

今回掲載された論文は複数の反応点を有する基質のどの部分にフッ素が反応するかをまとめたもので、この点についてまとめた論文はこれまでにありませんでした。本論文の情報は、ファインケミカル分野のフッ素化合物合成化学に多大な貢献をすると期待できます。

Site Selectivities in Fluorination
Syo Ishida, Tom Sheppard, Takashi Nishikata, Tetrahedron Letters, 2018, 59, 789–798
doi.org/10.1016/j.tetlet.2018.01.044

ドローンによる水生生物調査が可能となる環境DNA調査法を確立しました

創成科学研究科工学系学域社会建設工学分野 赤松良久准教授らの研究チームは、新たに環境DNA採水用のドローンシステムを開発し、ドローンでの採水により、環境DNA分析から魚類をターゲットにして生物調査を行う手法を開発しました。

これまで、水域での生物調査は、多大な時間や労力がかかり高コストであることが課題でした。湖沼・河川などの水環境中には、生物のフンや表皮などから溶け出たDNA断片(環境DNA)が存在しています。

赤松准教授らが開発した手法を用い、ダム湖において、ドローンによる表面水の採水を行ったところ、採水したサンプルから環境DNAを取り出し、ブルーギル、オオクチバスに特異的なDNAを測定することができました。また、環境DNA分析では、サンプルの間での混入(別のサンプルから少量の水が混入する)が問題となりますが、その対策として、採水のたびにDNAを除去できるように、取り外してDNAの除染を可能とする新たな採水システムを開発しました。

ダム湖において平成28年11月と12月の2回、複数地点において試行したところ、いずれにおいても対象となるブルーギル、オオクチバスについて環境DNAが検出され、また、サンプルの間の混入についても詳細にテストを行いましたが、いずれの場合も検出されず、混入が起きていないことを確認しました。

本研究結果は、ドローンによる採水によって環境DNAを用いた魚類など水生生物調査が、従来の調査手法よりはるかに簡便に行えることを示唆しています。また流れの速い(1.5 m /s)河川においても採水が安全に行えることを確認しており、湖沼だけでなく、河川、海域での調査にも利用できます。さらに、ドローンを使うことで、調査者が水域に直接入る必要がなく、作業者の安全が確保され、水域での調査の安全性を大幅に高める可能性があります。

この研究成果は10月18日『Limnology and Oceanography: Methods』に掲載されました。
(doi: 10.1002/lom3.10214)

研究の詳細はこちらをご覧ください

採水用のドローン(イラスト)
ダム湖での飛行の様子
採水の様子
採水の様子(イラスト)

天然では得られないアミノ酸を作る基本技術を開発−銅触媒を用いて、反応させづらい大きな部位へのアミノ基導入に成功−

大きな構造を持つアミノ酸は、画像診断薬や特定の細胞と強く相互作用するため、医薬分野で注目されています。しかし従来は、立体的に大きな反応部位にアミノ基を導入すること(アミノ化)が極端に難しく、利用できるアミノ酸の種類は限られていました。

山口大学大学院創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授と東京大学生産技術研究所物質・環境系部門の砂田祐輔准教授らのグループは、銅触媒によってα-ブロモアミド化合物とアミンとのアミノ化反応に成功しました。この原理を利用すると、立体的に非常に大きな反応部位にアミノ基を導入でき、さまざまな非天然型アミノ酸誘導体を作ることができます。天然のアミノ酸はその種類や構造に制限がある一方で、非天然型アミノ酸の種類や構造には制限はなく、期待される機能も無限に付与することが理論上は可能です。医薬分野を始め、広い分野での応用が期待されます。

この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=11.994)に掲載されました(doi:10.1002/anie.201706293)。

研究成果の詳細については、こちらをご覧ください。

図1:アミノ基導入の困難さ
図2:開発したアミノ化反応

銅触媒によるクロスカップリング法の限界を超えた第4級炭素中心の新規合成法の開発

大学院創成科学研究科工学系学域応用化学分野の西形孝司准教授らは、銅触媒を用いることで、炭素周りの4つ目の置換基としてアルキニル基(炭素-炭素3重結合)を導入することに成功しました。

2010年ノーベル化学賞は、パラジウム触媒によるクロスカップリング反応が対象分野でした。このクロスカップリング法は医農薬品や電子材料など様々な有用物質の合成に広く利用されており、これを用いないプロセスは無いと言っても過言ではありません。そのように優れたクロスカップリング法ですが、第4級炭素中心の合成は非常に難しく不可能であるとされてきました。炭素の周りには4つまで置換基を配置することが可能ですが、最後の4つ目を配置しようとすると、先に配置された置換基が立体的に非常に混みあってしまい、特別に強い試薬がなければ反応が進行しないという問題がありました。これでは医農薬品などの高機能性分子を構築できず、有機合成上の残された課題と認識されてきました。

西形准教授らの研究では、医農薬品の合成中間体として有用な炭素-炭素3重結合を持つ第4級炭素中心を効率的に合成できるようになります。この研究成果は、アルキニル化研究分野に大きなブレークスルーを与えただけでなく、将来の高機能な有用物質合成の実用化につながることが期待されます。

研究の詳細はこちらをご覧ください。
なお、この成果は、アメリカ化学会誌「ACS Catalysis」(IF=10.614)に掲載されました。
(DOI: 10.1021/acscatal.7b02615)

アルキル基と水素原子のアルキンへの付加を銅触媒系で精密制御 -シス及びトランス配置アルケンの自在な作り分けが実現!-

アルキル置換アルケンは医農薬品を構成する重要な骨格です。アルキル置換アルケンには、アルキル基とそのβ位の水素原子が同じ側にあるトランス構造とそれとは逆のシス構造があり(上図左右の分子)、これまでに様々な合成方法が研究されてきました。しかし、これらアルケン周りの立体化学を制御するのは容易ではなく、特に、炭素-炭素三重結合を持つアルキンへアルキル基と水素原子を同時に付加させる“ヒドロアルキル化”は、一段階でアルキル置換アルケンを合成できるにも関わらず、従来法では立体選択的付加反応の実現が困難でした。

今回、創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、銅触媒存在下、異なる水素源を用いることでアルキル基のアルキンへの立体選択的な付加を実現することに成功しました。シス構造を持つアルケンはシラン(H[Si])を用いることで、一方、トランス構造を持つものはアルコール/ジボロン(ROH/B2pin2)を用いることで、それぞれの立体を持つアルキル置換アルケンが合成できることを見出しました。この成果は、『ACS Catalysis』(IF=9.3)に掲載され、月間アクセス数は同雑誌のTOP20以内にランクインしました。

アルケン分子を選択的に合成するための方法論として、今後の複雑分子精密合成化学への応用が期待されます。

Tandem Reactions Enable Trans- and Cis-Hydro-Tertiary-Alkylations Catalyzed by a Copper Salt
Kimiaki Nakamura, Takashi Nishikata*,
ACS Catalysis, 2017, 7, 1049–1052, DOI: 10.1021/acscatal.6b03343

トリフルオロメチル基の新しい導入法を開発

トリフルオロメチル基を有する化合物はフッ素原子がもつ特異的な性質により、医薬、農薬、高分子材料および液晶材料等の様々な産業分野において重宝されています。ケトンのα位がトリフルオロメチル基に置換した化合物は様々な有用化合物へと変換可能です。そのため、その効率的な合成法の開発は重要な研究課題の1つです。これまでにケトンを出発物質として用いる手法ではケトンの活性化およびトリフルオロメチル源の双方が必要でした(式1-3)。

この度、創成科学研究科応用化学分野の川本拓治助教および上村明男教授からなる研究グループはトリフルオロメタンスルホン酸無水物がケトンの活性化剤かつトリフルオロメチル源として機能する新規手法の開発に成功しました(式4)。

この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』誌(IF = 11.709)に掲載され、『Synfacts』誌にてハイライトされました。

今後、本手法を用いた医農薬品や機能性材料合成への展開が期待されます。

なお、本研究の一部は旭硝子財団・研究奨励および科研費若手研究(B)の助成を受けて実施したものです。

Synthesis of α-Trifluoromethylated Ketones from Vinyl Triflates in the Absence of External Trifluoromethyl Sources
Takuji Kawamoto*, Rio Sasaki, and Akio Kamimura*,
Angewandte Chemie,International Edition, 2017, 56, 1342–1345. DOI: 10.1002/anie.201608591
Highlighted in Synfacts, 2017, 13, 72. DOI:10.1055/s-0036-1589791

アミド基の酸素と窒素の反応性制御に成功 -ラクタムとイミノラクトンの自在な作り分けが実現!-

アミド基は医農薬品を構成する複素環分子を合成するための重要な官能基です。実際に、アミドの反応性を利用した論文はこれまでに数多くの報告例があります。しかしながら、アミド官能基内に有する窒素と酸素の反応部位を、反応条件の違いにより自在に制御できた例はこれまでにありませんでした。この反応性を制御できると、同一の出発原料からラクタム及びイミノラクトンを合成することができるようになるため、長年、アミドの反応性制御法開発が求められていました。

今回、創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、α-ブロモアミド化合物を銅触媒存在下でアクリル酸誘導体と反応させると、強塩基下では窒素の反応性のみが発現し、対応するイミノラクトンが生成することを発見しました。一方、弱塩基条件で反応を行うと、今度はアミドの酸素のみが反応し、対応するイミノラクトンへと変換されることがわかりました。

この成果は、『ACS Catalysis』(IF=9.3)に掲載されました。

アミド官能基の反応性を化学的に精密制御するための方法論として今後の複素環化学への応用が期待されます。

Different behaviors of a Cu catalyst in amine solvents: Controlling N and O reactivities of amide
Yu Yamane, Koichiro Miyazaki, Takashi Nishikata*,
ACS Catalysis, 2016, 6, 7418−7425, DOI:10.1021/acscatal.6b02309

安価なアルカリフッ化物を用いて選択的フッ素化の新手法を開発-アミドと銅の相互作用を利用-

フッ素はその特異な性質のため有用物質に不可欠な元素であり、例えば医農薬品の実に20~30%にフッ素が含まれています。そのため、分子の効率的フッ素化反応開発は有機合成における最重要課題の一つです。

今回、創成科学研究科応用化学分野の西形孝司准教授(テニュアトラック)らは、銅触媒存在下、複数の炭素-臭素結合を持つ基質に対してフッ素化を行ったところ、3級アルキル基の部分で選択的に反応が進行することを見出しました。反応中に生じるフッ化銅とアミドとの相互作用が選択的なフッ素化を実現していると予想されています。また、フッ素源として従来開発されてきた反応剤よりも安価なフッ化セシウムを用いることができる点も本反応の特徴です。

この研究成果は『Angewandte Chemie, International Edition』(IF=11.709)に掲載され、ハイライト研究として内表紙を飾りました。

新規なフッ素導入法として様々な分野への応用が期待されます。

Site-selective tertiary-alkyl-fluorine bond formation from alpha-bromoamides using a copper-CsF catalyst system
Takashi Nishikata*, Syo Ishida, Ryo Fujimoto,
Angewandte Chemie, International Edition, 2016, 55, 10008-10012. doi:10.1002/anie.201603426R1

応用化学科 麻川 明俊助教の研究がNature Physicsのresearch highlightsで紹介されました

大学院創成科学研究科工学系学域応用化学分野の麻川 明俊助教の研究成果がNature Physicsのresearch highlightsで紹介されました。

応用化学科結晶工学研究室の麻川 明俊助教らは、氷表面の1原子・分子高さの段差を検出できる特殊な光学顕微鏡(図1)を用い、融点 (0°C) 以下の温度で生成する氷表面の水膜(図2)の挙動を様々な水蒸気圧下で調べました。 その結果、2種類の水膜は氷が融けるのではなく、水蒸気が析出することによって生成することを見出しました。従来、これらの水の膜は、氷が溶ける「表面融解」で生成すると考えられてきましたが、本成果によって永年信じられてきた「表面融解」の描像は根底から覆されました(図3)。

以上の成果は、米国科学アカデミー紀要 (インパクトファクター;9.7)に掲載 (PNAS, 113 (7), 1749-1753 , 2016)され、今回Nature誌の姉妹誌であるNature Physicsにより選ばれ、同誌のresearch highlightsに抄録されました 。(Nature Physics, 12 (3), 201 , 2016)

上記の液膜は金属結晶や半導体結晶, 有機結晶などでも観察され、本成果はこれら結晶材料の融点直下での界面現象の解明に貢献すると期待されます。

図1 氷結晶表面上の原子・分子高さの段差を可視化できるレーザー共焦点微分干渉顕微鏡
図2 氷表面を覆う層状と液滴状の水膜
図3 2種類の水膜の生成と水蒸気圧
図の左側は本研究成果を示しており、右側は従来の描像を示している。高い水蒸気圧下では層状と液滴状の水膜が生成するが (A)、水蒸気圧が減少していくと、まず層状の水膜が消滅し (B)、次に液滴状の水膜が消滅する (C)とわかった。

有機硫黄系材料を用いた高性能マグネシウム二次電池の開発に世界で初めて成功

● Journal of Power Sources (Impact Factor: 6.217)に掲載

山吹一大(大学院理工学研究科・助教)、堤宏守(大学院医学系研究科・教授)、吉本信子(大学院理工学研究科・准教授)らの研究チームは、既存のリチウムイオン二次電池の代替として将来的に期待されている、高容量を有するマグネシウム二次電池の開発に成功しました。

開発した二次電池は、リチウムに比べて資源量が多くかつ高い理論容量を持つマグネシウムと硫黄を主な構成元素とするため、資源的な制約を受けることなく高容量化の実現が可能となりました。また、正極材料の構成成分に有機硫黄を用いたマグネシウム硫黄二次電池の開発を世界で初めて成功することができました。さらに、既報のマグネシウム二次電池では作動させるためには高温環境下を必要としているものが多いなか、開発した二次電池においては室温での充放電が可能であることを実証しました。

まだ基礎研究段階であり、長期サイクルでの安定な作動性の確保等が必要となりますが、次世代二次電池の候補としての可能性を示すことができ、今後、よりコンパクトな車載用、住宅用の蓄電デバイスへの応用が期待されます。

“Room temperature rechargeable magnesium batteries with sulfur-containing composite cathodes prepared from elemental sulfur and bis(alkenyl) compound having a cyclic or linear ether unit”
Kanae Itaoka, In-Tae Kim, Kazuhiro Yamabuki, Nobuko Yoshimoto, Hiromori Tsutsumi, Journal of Power Sources, 297, 323-328(2015).
DOI: 10.1016/j.jpowsour.2015.08.029

鋼構造物のリユースによる一歩進んだ資源循環の提案

鋼構造物のリユースによる一歩進んだ資源循環の提案 1976年建設の建物より採取した部材の柱梁接合部実験

大学院理工学研究科・建築デザイン工学分野の藤田 正則教授らのグループは、鋼構造物のリユースによる大幅な環境負荷の軽減を実現するための研究・調査結果をまとめました。

現在、鋼構造物に使用された鋼材は解体後、電気炉によるスクラップ溶融等を経て、再び鋼材としてリサイクルされる資源循環の流れが成立していますが、スクラップ溶融は多くのエネルギーを必要とし、多量のCO2を排出することから、環境に優しく安全な新たな資源循環の流れが求められています。

そこで、有力な方法の一つとして鋼構造物のリユースに着目し、その技術的課題の大部分を解決してきました。今後はこの研究・調査結果が広く公知の事柄となり、活用されることが期待されます。

平成27年10月5日(月曜日)の日刊産業新聞に、藤田教授のインタビューが掲載されており、また12月には、東京で部材リユースに関する「鋼構造環境配慮設計指針」の講習会が開催される予定です。

リモートセンシングを用いたマグロの生息適正海洋環境と漁獲量に関する調査

文部科学省 宇宙科学技術推進調整委託費(宇宙航空科学技術人材育成プログラム)の事業である「大学院の国際連携による衛星リモートセンシングの人材育成」による成果として、ウダヤナ大学(インドネシア)から本学大学院理工学研究科博士後期課程へ留学中のM. D. S., A. B. Sambarさんの論文が、国際学術誌(査読付)に掲載されました。

本研究は全天球衛星データを用いて、インドネシア南方のインド洋を対象に海洋環境(海面温度、クロロフィル濃度、海面高偏差)とその海域のマグロの漁獲量の相関を検討したものです。相関性の検討にはGeneralized Additive Model(GAM)法を適用、漁獲量を3ランク(漁獲量0、1~3、4以上)に分類することによって、これまで相関がみられないといわれていた海洋環境と漁獲量の相関を明らかにすることができました。また、この研究によって漁獲量の多い海面温度、クロロフィル濃度、海面高さの範囲を示すことができました。

Characterization of bigeye tuna habitat in the Southern waters off Java-Bali using remote sensing data, M. D. S., A. B. Sambar, F. Miura, T. Tanaka A. R. As-syakur, Advances in Space Research, No.55, pp.732-746, 2015.

(参考)「大学院の国際連携による衛星リモートセンシングの人材育成」の平成26年度の実施内容及び成果の概要

漁獲高から推測したマグロの生息適正海洋環境 図:漁獲高から推測したマグロの生息適正海洋環境(海面温度:SST、クロロフィル濃度:SSC、海面高偏差:SSHD)
海面環境の年間変化の様子とマグロの漁獲量の関係 図:海面環境の年間変化の様子とマグロの漁獲量の関係

衛星画像を用いたサンゴ礁の底質マッピング手法に関する研究

Shallow-water benthic identification using multispectral satellite imagery: Investigation of the effects of improving noise correction method and spectral cover

文部科学省 宇宙科学技術推進調整委託費(宇宙航空科学技術人材育成プログラム)の事業である「大学院の国際連携による衛星リモートセンシングの人材育成」による成果として、ウダヤナ大学(インドネシア)から本学大学院理工学研究科博士後期課程へ留学中のM. D. M. Manessaさんの論文が、国際学術誌(査読付)に掲載されました。

本研究では、衛星画像の波長分解能とノイズ除去方法の向上が、サンゴ礁底質マッピングの精度に与える影響を明らかにしました。

(参考)「大学院の国際連携による衛星リモートセンシングの人材育成」の平成26年度の実施内容及び成果の概要

WorldView-2画像を用いたMeno島沿岸のサンゴ礁の分類例 図:高分解能衛星画像を用いたサンゴ礁底質分類の例(Gili諸島、インドネシア)
(Includes copyrighted material of DigitalGlobe, Inc., All Rights. Reserved)

M. D. M. Manessa, A. Kanno, M. Sekine, E. E. Ampou, N.Widagti and A. R. As-syakur, Remote Sensing, ISSN 2072-4292, No.6, pp.1-15, 2014.

燃えない・強い・柔らかいゲル ―リチウムイオン電池用新規ゲル電解質を開発―

● Journal of Power Sources (Impact Factor: 6.217)に掲載

リチウムイオン電池は身近な携帯用電子機器(携帯電話やノートパソコン)に利用され、現在では、電気自動車などの大型用途への展開が期待されています。しかしながら、電解液に有機溶媒を用いるため高温での発火・爆発や液漏れなど安全面での普遍的な課題が存在し、これを解決するため、電解液の難燃化やゲル化・固体化に関する研究開発が活発に進められています。

大学院理工学研究科物質化学専攻の間 泰佑君(博士前期2年)と藤井健太准教授、吉本信子准教授、森田昌行教授らのグループは、不燃性の有機溶媒と極めて微量の多分岐高分子を用いて、「燃えない・機械的強度が高い・形状自由度が高い」を兼ね備えたゲル電解質を開発し、これをリチウム電池用電解質として応用しました。このゲルは高度な高分子合成技術を必要とせず、簡便に作成できるにも関わらず、実用レベルの性能を示すことが明らかとなり、今後の更なる展開が期待されます。

“High-performance gel electrolytes with tetra-armed polymer network for Li ion batteries”
Taisuke Hazama, Kenta Fujii*, Takamasa Sakai, Masahiro Aoki, Hideyuki Mimura, Hisao Eguchi, Yanko Todorov, Nobuko Yoshimoto*, and Masayuki Morita*, J. Power Sources, 2015, 286, 470-474., DOI: 10.1016/j.jpowsour.2015.04.11

特許:特願2015-050200, 2015年3月13日

有機/無機ナノハイブリッド薄膜を使って着色排水を透明に

● RSC(英国王立化学会)の論文誌Journal of Materials Chemistry A(インパクトファクター=6.626)に掲載

大学院理工学研究科物質化学専攻の中山雅晴教授(学部担当:工学部応用化学科)と博士前期課程2年の森 克将氏(工学部応用化学科卒)らのグループは、界面活性剤分子が集積した有機層とマンガン酸化物ナノシートが交互に積層した有機/無機ナノハイブリッドを独自の電気化学法によって薄膜化し、得られた薄膜を使って着色排水を透明にするプロセスを開発、そのメカニズムを解明しました。 従来の吸着材が嵩高い粉体であるのに対し、この材料は微細加工が可能な薄膜(厚さは1ミクロン程度)であるため、微小流路での脱色や有機汚染物質の除去などに応用できます。一方、炭素繊維など高表面積基体にコーティングすれば大規模な工業プロセスへの展開も可能です。

中性有機色素(p-AAB)を含む水溶液に今回開発した薄膜を浸漬した際の色変化、薄膜のX線回折パターン、ならびに速度論的解析. 図:中性有機色素(p-AAB)を含む水溶液に今回開発した薄膜を浸漬した際の色変化、薄膜のX線回折パターン、ならびに速度論的解析.

A thin film sorbent of layered organo-MnO2 for the extraction of p-aminoazobenzene from aqueous solution
Katsumasa Mori, Sohei Iguchi, Shusuke Takebe, and Masaharu Nakayama*
J. Mater. Chem. A 2015, 3, 6470-6476.

発行日(オンライン):2015年2月20日

ドイツ、エアランゲン大学との共同研究が掲載されました。

工学部の新長州ファイブ奨学金を得て、本学の交流協定大学であるドイツのエアランゲン大学(Friedrich-Alexander-Universitat Erlangen-Nurnberg)に2012年に留学していた医学系研究科博士後期課程2年(当時)の野首智美さんの、エアランゲン大学での研究成果が、Tetrahedron Letters誌に当大学と本学の共同研究論文として掲載されました。 この研究はアゾ基(N=N)を含むビアリールをメイン骨格とする中員環化合物(8員環)を、ジアゾ化合物とアリルエステルとから一段階で得られる入手容易な化合物から簡単に効果的に合成する手法の開発です。 アゾ基を含む中員環化合物は一般には入手困難ですが、生理活性が期待できる化合物も多く、この研究が新しい創薬開発の有効な合成反応の一つとして興味深い結果を与えたものとして興味が持たれます。

ドイツ、エアランゲン大学との共同研究が掲載されました。

Synthesis of dibenzo[c,e][1,2]diazocines - a new group of eight-membered cyclic azo compounds
Tomomi Nokubi, Stephanie Kindt, Tim Clark, Akio Kamimura, Markus R. Heinrich
Tetrahedron Lett. 2015, 56, 316-320: doi:10.1016/j.tetlet.2014.11.064.

バイオマスのソルビトールの変換反応にイオン液体を使った新たな画期的方法を提案

● ChemSusChem (Impact factor = 7.117)に掲載

山口大学大学院医学系研究科応用分子生命科学系専攻の上村明男教授(有機合成化学)と宇部興産の海磯孝二研究員中心とした研究グループは、バイオマスの効率的利用のための重要な反応である、ソルビトールからイソソルビドへの変換反応を、イオン液体を使ってきわめて短時間で効率的に進行させる方法をみいだしました。 この方法ではソルビトールが酸触媒条件でマイクロ波照射をたった10分するだけで、効率的にイソソルビドへと変換できます。バイオマス由来の有用化学物質のソルビトールをこれほど短時間に、インスタント食品を作るがごとくの手軽さで、重要な工業原料であるイソソルビドに変換できるこの方法は、画期的なバイオマス変換方法を提案したものとして高く評価されています。 イオン液体も回収再利用できるため、将来有望なグリーン変換反応として注目されています。

バイオマスのソルビトールの変換反応にイオン液体を使った新たな画期的方法を提案

A Rapid Conversion of Sorbitol to Isosorbide in Hydrophobic Ionic Liquids under Microwave Irradiation
Akio Kamimura,* Kengo Murata, Yoshiki Tanaka, Tomoki Okagawa, Hiroshi Matsumoto, Kouji Kaiso, and Makoto Yoshimoto
ChemSusChem 2014, 7, 3257-3259: DOI: 10.1002/cssc.201402655

プラスチックを高付加価値の化学原料に効率的に変換炭素資源リサイクルに新しい手法を提案

● ChemSusChem (Impact factor = 7.117)に掲載

山口大学大学院医学系研究科応用分子生命科学系専攻の上村明男教授(有機合成化学)と宇部興産の海磯孝二研究員中心としたメンバーは、プラスチックの化学原料化に画期的な方法を開発しました。ナイロンなどのポリアミドを超臨界アルコール中で処理し、その際にグリコール酸を添加しておくと、ヒドロキシカルボン酸に一気に変換できることを見いだしました。 変換効率は70%以上に及び、選択的に生成物を与えます。生成物であるヒドロキシカルボン酸は単純なモノマーであるラクタムよりも市場価値が高いので、プラスチックのから化学原料の合成法として活用が期待される反応です。炭素資源の効率的循環が世界的に注目されている中、一つの流れを作る可能性を持つこの新しい手法に期待がかけられます。

プラスチックを高付加価値の化学原料に効率的に変換 炭素資源リサイクルに新しい手法を提案

Efficient conversion of polyamides to ω-hydroxyalkanoic acids; a new method for chemical recycling of waste plastics
Akio Kamimura,* Kosuke Ikeda, Shuzo Suzuki, Kazunari Kato, Yugo Akinari, Tsunemi Sugimoto, Kohichi Kashiwagi, Kouji Kaiso, Hiroshi Matsumoto, and Makoto Yoshimoto
ChemSusChem. 2014, 7, 2473-2477: DOI: 10.1002/cssc.201402125

ラザフォード後方散乱分光法を用いた汚染物質のポリアミド系RO膜/水分配係数の測定

ラザフォード後方散乱分光法を用いた汚染物質のポリアミド系RO膜/水分配係数の測定

理工学研究科環境共生系専攻の鈴木祐麻助教が日本海水学会第65年会において「進歩賞」を受賞しました。水資源の汚染・枯渇により水不足が世界各地で顕著になりつつあり、逆浸透膜(RO 膜)は海水淡水化技術として一層の普及が予想されています。 受賞の対象となった発表は、汚染物質のポリアミド系RO膜/水分配係数の測定手法を提案したものであり、深さ方向の元素組成を分析するのに適したラザフォード後方散乱分光法の特徴を上手く活用することで、100nm以下と非常に薄いポリアミド層と汚染物質の親和性を定量評価することが可能となりました。

本研究にて測定が可能となったRO膜/水分配係数は、汚染物質が膜を透過するメカニズムを解明するためには極めて重要な係数であり、今後、膜透過メカニズムの解明およびより高性能なRO膜の開発が期待されます。

【著者】
鈴木祐麻(山口大学大学院理工学研究科 環境共生系専攻)
David G. Cahill(イリノイ大学 アーバナ・シャンペーン校 Departments of Chemistry and Materials Science and Engineering)
Benito J. Marinas(イリノイ大学 アーバナ・シャンペーン校 Department of Civil and Environmental Engineering)

せん断流中のリポソームによる酸化酵素反応の加速化

● アメリカ化学会論文誌ACS Appl. Mater. Interfaces (IF = 5.008) に掲載

せん断流中のリポソームによる酸化酵素反応の加速化

応用分子生命科学系専攻博士後期課程2年 夏目友誉氏と吉本誠准教授は、微小円管内層流において、酸化酵素を内包させた脂質膜小胞(リポソーム)による触媒反応が加速化される現象を見出しました。 リポソームの膜構造はせん断流中で変化するため、リポソーム内の酵素分子は液本体に放出されます。せん断流中の酵素は静止液系よりも著しく高い活性を発現するとともに、高活性な酵素がリポソームの共存下で長時間安定に維持されることを明らかにしました。 この現象は、生体内やマイクロリアクターなどの微小流路中の物質移動や酵素反応の制御に応用できる可能性があります。

ACS Appl. Mater. Interfaces, DOI: 10.1021/am405992t
T. Natsume and M. Yoshimoto, “Mechanosensitive liposomes as artificial chaperones for shear-driven acceleration of enzyme-catalyzed reaction.”

ヨウ素を特異的に捕獲できる薄膜材料を開発

● 宇部日報(平成25年11月19日付)、朝日新聞(平成25年11月29日付)に掲載
● 日本分析化学会の英文誌「Analytical Sciences」のHot Articleに選出、ならびに表紙図に採用

ヨウ素を特異的に捕獲できる薄膜材料を開発

大学院理工学研究科の中山雅晴教授、博士前期課程1年佐藤あゆさんらの研究グループは、カチオン性界面活性剤(ヘキサデシルトリメチルピリジニウム)を数nmの空間に集積させたマンガン酸化物シートの積層体を電気化学的に作製し、この材料を使ってヨウ化物イオンを高い効率で選択的に捕獲することに成功しました。

福島第一原子力発電所事故により、数多くの放射性核種が環境中に放出されました。放射性ヨウ素のうち、ヨウ素129は半減期が1570万年ときわめて長いため、ヨウ化物イオンとして海水や地下水などに拡散する懸念があります。従来の汚染水浄化装置がセシウムなど陽イオンの捕集に効果的であるのに対し、今回の技術はヨウ化物イオンの選択的回収に有効です。マンガンは安価かつ環境負荷が小さい元素である上、独自に開発した電気化学的薄膜作製法は常温、水溶液中で進行するクリーンプロセスです。

PET上に作製したマンガン酸化物フィルム

銅触媒による新しい3級アルキル化反応を開発

● アメリカ化学会論文誌 J. Am. Chem. Soc. (IF=10.677)に掲載

銅触媒による新しい3級アルキル化反応を開発

大学院理工学研究科・物質工学系学域・西形孝司准教授らのグループは、これまで用いることが難しかった分解しやすいα-ハロカルボニル化合物を3級アルキル源とする“銅触媒3級アルキル化反応”の開発に成功しました。また、この反応における触媒素過程の活性種としてラジカルが発生することを反応機構解析により証明し、開発した反応の理論的な解釈にも成功しました。

従来では数段階を要した3級アルキル基の導入を1段階で達成可能な方法として画期的であり、天然物をはじめとする様々な有用物質の効率的合成への応用が期待されます。

An Efficient Generation of a Functionalized Tertiary-Alkyl Radical for Copper-catalyzed Tertiary-Alkylative Mizoroki-Heck type Reaction
Takashi Nishikata*, Yushi Noda, Ryo Fujimoto, and Tomomi Sakashita
J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 16372?16375. DOI: 10.1021/ja409661n
Publication Date (Web): October 21, 2013 (Communication)

新長州ファイブ奨学金でUCL留学中に新しいシクロプロパン化反応を開発

● Angewandte Chemie International Edition (IF = 13.734)に掲載

新長州ファイブ奨学金でUCL留学中に新しいシクロプロパン化反応を開発

アミノシクロプロパンは生理活性物質や天然物にも多く見られる構造で、天然からだけでなく有機合成的に作り出す工夫がこれまでなされてきました。しかし実際は、アミノシクロプロパンはなかなか作りにくい構造であり、せっかく作ったアミノシクロプロパン構造を壊すことなく簡単に安く作り出す方法の開発がこれまで望まれてきました。 工学部の新長州ファイブ奨学金を得てイギリスのロンドン大学化学科(UCL:150年前の長州ファイブの留学先)に留学していた医学系研究科応用分子生命科学系専攻博士後期課程2年(当時、現カナダMcGill大学博士研究員)の石川慎吾さんらは、UCLのWilliam B. Motherwell教授の指導の下、アミノシクロプロパンの簡単な新しい合成反応を開発しました。 この反応は、カルバミン酸エステルを出発物質とし、これにオルトギ酸エチル、アルケン、銅粉、亜鉛粉、塩化亜鉛、塩化トリメチルシリルを加えるだけで進行して、一段階で効率的にアミドシクロプロパンを得る方法です。 アミドシクロプロパンはシス選択的に合成でき、アミド基は容易にアミノ基に変換できるので、これまで作るのが難しいとされてきたアミノシクロプロパンを速やかかつ大量(~4.5g)に得ることができるようになりました。 またこの方法を使えばアストラゼネカ社が開発した「チカグレロル(AZD6140)」のシクロプロパン部分の、シスの立体配置を持つ誘導体の部分構造も容易に得られます。この研究は、インパクトの高い研究成果として世界から注目されています。

A Rapid Route to Aminocyclopropanes via Carbamatoorganozinc Carbenoids
Shingo Ishikawa, Tom D. Sheppard, Jarryl M. D'Oyley, Akio Kamimura and William B. Motherwell*
Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 10060 ? 10063: DOI: 10.1002/anie.201304720.

光学活性な多環式化合物の合成法に新手法を提案

●英国化学会のChemical Communications (Impact factor = 6.169)及びアメリカ化学会のOrganic Letters (Impact factor = 5.862)に掲載

山口大学大学院医学系研究科応用分子生命科学系専攻の上村明男教授(有機合成化学)らを中心としたメンバーは、生理活性が注目されている多環式含窒素複素環化合物の合成に新手法を提案しました。 上村教授らは独自で開発した方法で容易に得られる光学活性なβ-アミノ-α-メチレンエステルにスズラジカルを作用させることで、スズ原子へのラジカル置換反応が進行することを見いだし、これまでに合成が容易でなかった、スズの入った五員環化合物が高効率に得られること示しました。 そしてこの化合物を、パラジウム触媒を用いて1,2-ジハロベンゼンとカップリングすると、多環式の含窒素複素環化合物に短段階で変換できることを明らかにしました。ここで得られるベンズイソインドール骨格は生理活性作用を持つ複素環式化合物として知られており、この方法を活用することで新規生理活性物質の探索などに向けた研究に興味深い方法論を開くことが可能となると考えられます。

光学活性な多環式化合物の合成法に新手法を提案

Published in Chem. Commun. 2012, 48, 6592 -6594. (Impact factor = 6.169)
Unexpected formation of stannolanes and trigonal bipyramidal tin complexes by radical cyclization reaction
Akio Kamimura,* Shingo Ishikawa, Fumiaki Noguchi, Takaaki Moriyama, Masahiro So, Toshihiro Murafuji, and Hidemitsu Uno

Also in Org. Lett. 2013, 15, ASAP: DOI: 10.1021/ol4003948. (Impact factor = 5.862)
Pd-catalyzed Tandem sp2-sp3 Coupling Reaction of Chiral Stannolanes: an Efficient Preparation of Optically Active Tetrahydrobenz[f]isoindoles
Akio Kamimura,* Masahiro So, Shingo Ishikawa, and Hidemitsu Uno

液体燃料のメソスケール管内安定燃焼を実現

● Proceedings of the Combustion Institute (Impact factor = 3.633)に掲載

理工学研究科三上真人教授(機械工学専攻)らを中心とする研究グループは、気体燃料および液体燃料を数ミリ程度の細径管内で安定燃焼させる手法を開発しました。

マイクロコンバスター(超小型燃焼器)は、次世代の超小型高密度エネルギー発生装置として、また、高効率超小型ヒータとして期待されています。液体燃料を用いるとそのエネルギー密度はリチウムイオン電池より二桁程度大きくなります。本研究ではまず気体燃料を対象に、細径管内に金属メッシュを挿入すると再生予熱効果により消炎直径以下の細径管内でも安定燃焼が可能となることを見出しました。次に、液体燃料の静電微粒化技術を細径管内に適用しメッシュによる再生予熱効果も利用することで、液体燃料が壁面付着することなく管内安定燃焼する条件が存在することを見出しました。触媒や外部加熱を用いることなく細径管内で液体燃料を安定燃焼させたのは世界で初めてです。本研究成果は今後の液体燃料を用いたマイクロコンバスター研究および開発のベースとなると期待されます。

Published in Proc. Combust. Inst. 34: 3387 3394, 2013 (Impact Factor 3.633)
Mikami, M., Maeda, Y., Matsui, K., Seo, T., Yuliati, L., "Combustion of gaseous and liquid fuels in meso-scale tubes with wire mesh"

液体燃料のメソスケール管内安定燃焼を実現 Stabilized flame inside a meso-scale tube with ethanol/n-heptane spray and air.

セルロースのグルコースへの新しい変換反応を開発

● Royal Society of Chemistry(英国化学会)のGreen Chemistry (Impact Factor = 6.320)に掲載

山口大学大学院医学系研究科応用分子生命科学系専攻の上村明男教授(有機合成化学)と吉本誠准教授(生物化学工学)らを中心としたメンバーは、環境に配慮したリソースとしてのセルロースを、イオン液体を用いることで容易にグルコースに変換する反応を開発しました。この方法では、これまで用いられることのなかった疎水性のイオン液体を用いるので、得られたセルロースとイオン液体の分離が容易にできる特徴があります。グルコースの収率は50%程度であり効率的なセルロースのグルコースへの変換が可能となりました。用いたリチウム塩も回収できるため、バイオリソースの有用物質への新たな変換反応として期待されます。

Published in Green Chem. 2012, 14, 2816  2820, (Impact Factor 6.320), Combination use of hydrophobic ionic liquids and LiCl as a good reaction system for the chemical conversion of cellulose to glucose
Akio Kamimura,* Tomoki Okagawa, Natsumi Oyama, Tamami Otsuka and Makoto Yoshimoto, DOI:10.1039/C2GC35811E

セルロースのグルコースへの新しい変換反応を開発

2012年度システム制御情報学会論文賞を受賞

本学理工学研究科情報・デザイン工学系学域の若佐裕治准教授が、2012年度システム制御情報学会論文賞を受賞し、2012年5月22日に開催された第56回システム制御情報学会研究発表講演会にて表彰されました。

2012年度システム制御情報学会論文賞を受賞

論文題目は「Particle Swarm Optimization アルゴリズムの安定性解析」で、論文賞はシステム制御情報学会論文誌に最近2年間に公表された学術・技術に寄与するところの大きい論文の著者に贈呈されるものです。

受賞対象論文は、近年注目されているParticle Swarm Optimization アルゴリズムとよばれる一種の最適化アルゴリズムに対して、その性質を制御工学的なアプローチによって解析したものです。この研究により、従来、経験則に従って決定されていたアルゴリズムの設定値と最適化の特性との関係をより正確に把握することが可能となり、アルゴリズムを扱い易くするための情報が整理されました。こうした点が、システム・制御・情報の分野の発展に寄与する優れた研究として高く評価されました。

若佐裕治准教授は受賞について、「制御工学と最適化手法は私の主な研究フィールドですが、これらに対する自分らしいアプローチが評価され、大変嬉しく思っています。この賞を励みとして、専門性を生かしてより良い研究を目指し、社会に貢献できるよう研鑽を積んでいきたいと思っています。」と抱負を述べています。

「新しい創傷治癒促進作用を持つ物質を開発」

● アメリカ化学会のThe Journal of Organic Chemistry (インパクトファクター = 4.002)に掲載

大学院医学系研究科応用分子生命科学系専攻(工学系)の上村教授と同研究科情報解析医学系専攻薬理学講座の乾教授らのグループは2−ベンズアゼピン誘導体が新しい創傷治癒促進効果を持つことを見いだしました。この薬剤は細胞増殖を刺激することなく細胞遊走のみを活性化して治癒を促進するユニークな薬剤です。これらの化合物の迅速な合成を開発し、多数の誘導体を光学選択的に合成することに成功し、それを元に構造活性相関を明らかにしました。この研究は山口大学がこれまで進めてきた医学部と工学部の積極的な連携による成果であり、全国的にも大変興味が持たれています。

「新しい創傷治癒促進作用を持つ物質を開発」

Published in J. Org. Chem. 2012, 77, 4017 – 4028(Impact Factor 4.002)、
Concise Synthesis of 2-Benzazepine Derivatives and Their Biological Activity,
Masahiro So, Tomoko Kotake, Kenji Matsuura, Makoto Inui, and Akio Kamimura

「ディーゼルエンジンのCO2・排気有害物質・騒音の低減手法の開発」

● International Journal of Hydrogen Energy (Impact factor = 4.053)に掲載

理工学研究科三上真人教授(機械工学専攻)らを中心とする研究グループは、ディーゼルエンジンのCO2・排気有害物質・騒音の低減手法を開発しました。

本研究ではディーゼルンエンジンにおいて軽油の筒内高圧遅延噴射時に吸気へ水素添加を行うことで、高負荷条件においても上死点付近で緩慢燃焼を実現でき、熱効率を低下させることなくCO2低減と低騒音化が可能であることを示しました。

さらに、高EGR(排気ガス再循環)と組み合わせることで、熱効率を低下させることなくNOx(窒素酸化物)とスモークの大幅な低減も可能であることを示しています。本研究は工業的に有用であるだけでなく、水素アシストディーゼル燃焼という新しい燃焼法の基本的理解という学問的意義も大きい内容と言えます。また、本研究は宮本亨君(システム設計工学系専攻)の2011年度博士論文の一部としてもまとめられています。

「ディーゼルエンジンのCO2・排気有害物質・騒音の低減手法の開発」

Published in Int. J. Hydrogen Energy 36: 13138-13149, 2011 (Impact Factor 4.053)
Miyamoto, T., Hasegawa, H., Mikami, M., Kojima, N., Kabashima, H., Urata, Y., “Effect of Hydrogen Addition to Intake Gas on Combustion and Exhaust Emission Characteristics of a Diesel Engine”

~廃ナイロンを高付加価値ファインケミカル材料へ~

● 炭素資源の化学リサイクルの経済的問題を効果的に解決する新手法を提案Green Chemistry (Impact factor = 5.472)に掲載

山口大学大学院医学系研究科応用分子生命科学系専攻の上村明男教授(有機合成化学)らを中心としたメンバーは、環境科学において興味が持たれているプラスチック化学リサイクルの分野に、合成化学的テクニックを駆使した画期的な新しい方法を開発しました。

上村教授らはナイロン6やナイロン12を超臨界アルコールで処理すると、原料のラクタムではなくそれがさらに反応したヒドロキシカルボン酸に効果的に変換できることを示しました。ヒドロキシカルボン酸は市場的にはラクタムよりも付加価値の高い化学原料として知られているため、ナイロンを単純に化学リサイクルしてナイロンに戻すよりも新しい価値を生み出す反応として使うことが可能となります。

これまでに廃プラスチックの化学リサイクルにおいて付加価値の高い材料へと変換する手法は知られていなかったので、この方法を活用することで資源リサイクル科学に経済的にも化学的にも興味深い方法論を開くことが可能となると考えられます。

廃ナイロンを高付加価値ファインケミカル材料へ

Direct conversion of polyamides to ω-hydroxyalkanoic acid derivatives by using supercritical MeOH
Akio Kamimura, Kouji Kaiso, Shuzo Suzuki, Yusuke Oishi, Yuki Ohara, Tsunemi Sugimoto, Kohichi Kashiwagi, and Makoto Yoshimoto
Green Chem. 2011, 13, 2055  2061

日本真空協会スパッタおよびプラズマプロセス技術部会(SP部会)部会賞受賞

本学理工学研究科諸橋信一教授が、平成23年度日本真空協会スパッタリングおよびプラズマプロセス技術部会(SP部会)部会賞を、平成23年7月26日開催の第124回定例研究会にて受賞し表彰されました。

小金井真准教授

受賞論文は「Nb Thin Films Fabricated by Magnetic Field Distribution Variable-type Facing Target Sputtering System : J. Vac. Soc. Jpn, Vol. 54, 181-183, 2011」で、真空を破らずに可動磁場発生機構により対向ターゲット間の磁場分布を変化させて堆積速度を5倍程度変化でき、1つのカソードで薄膜作製に必要な低ダメージ性と高生産性の両立を実証した。

独創的なコンセプトが含まれているとして学術的に高く評価され、薄膜工学における進歩・発展に顕著な功績があると認められたことによります。

諸橋信一教授は、2009年度第9回日本真空工業会イノベーション賞に引き続きの受賞について、「今後も大学の立場からではあるが、我が国の基盤産業である「モノ作り」産業へ微力ながらも貢献したいと考えている。」、と抱負を述べています。

日本リモートセンシング学会論文奨励賞を受賞(5月26日)

このたび、本学理工学研究科 神野有生助教(社会建設工学専攻)が日本リモートセンシング学会論文奨励賞を受賞されました。

受賞の対象となった論文は、「光学理論モデルのセミパラメトリック表現に基づく浅水域の汎用水深分布予測法」であります。

この論文は、サンゴ礁などの浅い水域を撮影した衛星画像を用いて、高解像度の水深マップを作成する技術を提案したものであり、 光学理論と最新の統計学の成果の組み合わせにより、従来技術より高精度な水深マッピングが可能となりました。

このような水深マップは、水環境の流れ・波・水質・生態系などの数値解析の基礎情報となる可能性を持ちます。

第49回 空気調和・衛生工学会賞学術論文部門賞の受賞

本学理工学研究科感性デザイン工学専攻の小金井真准教授が、第49回空気調和・衛生工学会賞論文賞(学術論文部門)を受賞し、5月17日の空気調和・衛生工学会通常総会後の学会賞表彰式にて表彰されました。

小金井真准教授

論文題目は「非結露型次世代空調システムに関する研究」(第1報~第4報)で、デシカント外調機内にて処理空気の冷却と吸着材の再生のためにCO2ヒートポンプを活用する新方式を提案し、実験とシミュレーションによりその有効性を検証した研究です。種々の既存システムとの比較検討、冷房通期の消費エネルギー量の解析、暖房加湿運転時の性能検討などを行うことにより提案方式の実用性を広範に調べたものです。これらにより希有な知見や更なる開発に向けた課題などが提供されたことが今後のデシカント空調システムの開発や設計に大きく貢献するものであるとして学術的に高く評価されたものです。

小金井准教授は受賞について、「このたびは名誉ある賞をいただき大変光栄に存じております。この受賞を励みに環境負荷低減型の新しい空調システムの研究に一層励んでまいりたいと存じます。」と抱負を述べています。

Depolymerization of Unsaturated Polyesters and Waste Fiber-Reinforced Plastics by using Ionic Liquids: The Use of Microwaves to Accelerate the Reaction Rate
-イオン液体とマイクロ波照射を組み合わせた新しいプラスチックの再資源化法を開発-

● ChemSusChem(Inpact Factor 6.325)に掲載

上村明男教授(応用化学科)、大学院生山本茂弘君(応用分子生命科学系専攻)らは、難分解性プラスチックであるFRP(繊維強化プラスチック)をイオン液体中マイクロ波照射を行うことで、きわめて短時間に効果的に分解し、その成分であるモノマーとガラス繊維を再利用可能なかたちで回収する新しい手段を開発しました。イオン液体は繰り返して利用が可能であり、興味深い化学リサイクル法として注目されます。プラスチックの資源循環リサイクル技術が注目されている現在、その化学リサイクルに向けて有効な技術を提供でき、今後のリサイクル技術の発展に寄与することが期待されます。なお、この論文の一部は2010年度プラスチックリサイクル化学研究会のポスター賞を受賞しました。

イオン液体とマイクロ波照射を組み合わせた新しいプラスチックの再資源化法を開発

Published in ChemSusChem, 2011, 4, 644 649 (impact Factor 6.325)
Akio Kamimura, Shigehiro Yamamoto and Kazuo Yamada, Depolymerization of Unsaturated Polyesters and Waste Fiber-Reinforced Plastics by using Ionic Liquids: The Use of Microwaves to Accelerate the Reaction Rate (644 649)
See also; http://www.fsrj.org/output/5,%20hyousyou/award.html

Surfactant-Induced Electrodeposition of Layered Manganese Oxide with Large Interlayer Space for Catalytic Oxidation of Phenol
-界面活性剤とマンガン酸化物の相補的な自己組織化による新しい有機/無機ナノハイブリッドの合成―

● アメリカ化学会の論文誌Chemistry of Materials(Impact Factor 5.368)に掲載

中山雅晴教授(応用化学科)、大学院生社本光弘君(物質化学専攻)、上村明男教授(応用化学科)は、界面活性剤存在下でマンガン(II)イオンを電気化学的に酸化すると会合したカチオン性界面活性剤上でマンガン酸化物が二次元成長し、マンガン酸化物シートが界面活性剤層をサンドイッチした多層構造からなる有機/無機ナノハイブリッドが形成されることを見いだしました。マンガン酸化物層間(ゲスト層)は数ナノメートルと広いため、水溶性有機分子に対する反応場として好適です。マンガン酸化物シートは電極からの電子を層間の有機分子に受け渡しできるので、層間を利用した選択的かつ効率的な触媒反応が可能な“エレクトロナノリアクター”と見なすことができます。このようにして、従来の絶縁性多孔物質(クレイ、ゼオライトなど)では実現できなかった新しいホストーゲスト科学を創造できると期待されます。

X線回折チャートと断面TEM写真 図。界面活性剤/マンガン酸化物の多層形成を示すX線回折チャートと断面TEM写真

Published in Chemistry of Materials, WEB公開中(DOI: 10.1021/cm101970b)
M. Nakayama,* M. Shamoto, A. Kamimura, “Surfactant-Induced Electrodeposition of Layered Manganese Oxide with Large Interlayer Space for Catalytic Oxidation of Phenol”

中国地域産学官連携功労者表彰を受賞

齊藤俊教授 産学官連携活動における大きな成果 「海面突入時の衝撃を低減する自由降下式救命艇」開発の共同研究 -

齊藤俊教授が民間との共同研究で「自由落下式救命艇の座席構造と乗員が受ける衝撃を解析、座席に組み込む緩衝材の振動衝撃評価について技術指導」を行い、国内で初めて高さ30mから安全に降下できるタイプの救命艇の開発に寄与し、中国地域産学官連携功労賞表彰を受賞しました。開発した救命艇は、国際海事機関IMO基準をクリアしているだけでなく、乗員の安全性まで配慮した設計となっており、新たな国際基準となる仕様となっています。本功績が高く評価され2010年3月17日(水)の第1回山口県産業技術振興奨励賞「山口県知事特別賞」に次ぐ受賞となりました。

斉藤教授

第48回 空気調和・衛生工学会賞学術論文部門賞の受賞

本学名誉教授 中村安弘名誉教授、栗山憲名誉教授、大学院理工学研究科 山本正幸助教が、 5月18日に第48回 空気調和・衛生工学会賞学術論文部門賞を受賞しました。

論文題目は、「非線形性を有する空調用熱源プラントの最適運転制御に関する研究」で、「第1報-冷凍機とポンプ動力の非線形性を線形計画法で扱うための手法とその効果」及び「第2報-蓄熱槽の放熱運転におけるオン-オフ制御のポンプ動力の最適性に関する考察」が学術的に高く評価され、空気調和・衛生工学における進歩・発展に顕著な功績があると認められたことによります。

受賞対象論文は、通常ならば大規模な計画問題となる蓄熱式空調用熱源プラントの一日を通した最適運転制御に関して、混合整数計画法を用いた実用的な近似解法を提案すると共に、線形計画法では定式化が難しい段階的な出力を行う冷凍機やオン-オフ制御のポンプ動力も厳密に最適化できる計算手法を提案したものです。

山本正幸助教は受賞について、「中村先生、栗山先生と共に研究に励んだ6年間の成果が、この論文賞の受賞として評価され、大変、嬉しく思います。今後も、微力ながら温熱環境に関する研究や人のためになる研究を行っていきたいと思います。」 と抱負を述べています。

上村教授のグループがタミフルの形式合成を達成

● アメリカ化学会の論文雑誌J. Org. Chem. (Impact Factor 3.952)に掲載

世界的流行が懸念されている新型インフルエンザですが、その対処法の一つとしてのタミフルの量産が求められています。タミフルは現在、天然物であるシキミ酸から合成されていますが、天然物に一切頼らない化学合成が世界的に模索されてきています。上村教授(医学系研究科応用分子生命科学系専攻工学系)らのグループは、入手容易なピロール誘導体から10段階でタミフル合成の中間体までの合成に成功しました。この方法は保護基をほとんど用いないですむだけでなく、窒素官能基を導入するためにアジドを経由することなく達成しているので、興味深い方法であり、アメリカ化学会の論文雑誌J. Org. Chem. (インパクトファクター = 3.952)に掲載されました。

タミフルの形式合成の達成

Published in J. Org. Chem. 2010, 75, 3133-3316 (Impact Factor 3.952)
Akio Kamimura and Toshiki Nakano, "Use of the DielsAlder Adduct of Pyrrole in Organic Synthesis. Formal Racemic Synthesis of Tamiflu"

2009年度環境大臣賞およびGSC賞を受賞!!

● 「配管抵抗低減剤を用いた省エネルギー技術の開発と普及」佐伯隆准教授

水にある種の界面活性剤を添加すると、流れの抵抗が激減するという抵抗低減効果を省エネルギー技術として実用化させた。大学のシーズ技術をもとに産学公共同研究の成果として確立した本技術は、水循環の動力エネルギーを20~50%削減できる。これまで国内130件の導入実績(一般ビル、高層オフィスビル、総合病院、大規模店舗、空港などの水循環空調設備)があり、今後とも我が国のCO2削減に寄与できるものである。本功績に対し、2008年度に中国地域産官学コラボレーションセンターより大学発ベンチャー功労賞、2009年にグリーンサステイナブルネットワーク((財)化学技術戦略開発機構内)よりGSC賞を、また総合的な環境負荷削減に大きく貢献した業績として、環境大臣賞を受賞した。

2009年度環境大臣賞およびGSC賞を受賞!!

開発した添加剤を水に加えると、撹拌しても渦ができない流体に変化する。(この写真は化学工学会の機関誌「化学工学」4月号に掲載される)

「対向スパッタ装置の高機能化とそれを利用した薄膜作製方法の開発」

● 第9回日本真空工業会イノベーション賞表彰記念論文

諸橋信一教授(電気電子工学科)の考案による回転機構及びスパッタモード可変機構をもつ新型低温スパッタ装置とそれを利用した薄膜作製方法で、1)平成17、18年度経済産業省地域新生コンソーシアム「有機EL電極・保護膜形成用低温スパッタ装置の開発」の採択、2)第9回日本真空工業会イノベーション賞表彰、及び3)日本国特許3936870号取得と、科学技術振興機構の特許化支援による米国、韓国、台湾への2件(PCT/JP2008/058621、PCT/JP2009/058976)の国際特許出願の実績を持つ。

回転機構及びスパッタモード可変機構をもつカソードにより、低温・多元・コンパクト・スパッタモード可変を特徴とする高機能対向スパッタ装置である。これらの機構により電子デバイス作製に不可欠な低ダメージ性と高生産性の両立を、1つのカソードで実現した。

可動磁場発生機構により磁場分布を切り替える技術には独創的概念が含まれ、将来大きく伸びる可能性を秘めている。太陽電池や有機EL等の多層薄膜構造をもつフィルムベースエレクトロニクス・ディスプレイ用途に役にたつ技術であり、国内外真空及び半導体装置メーカーへのライセンス契約を考えている。

真空ジャーナル

真空ジャーナル、128号pp.28-29, 2010年

Displacement measurements using Global Positioning System for rock movements -Fundamentals, new developments and practical applications-

●基調講演:岩工学に関する韓国・日本ジョイントシンポジウム

清水則一教授(社会建設工学科)が高精度化に成功し、その技術をもとに共同開発したGPS変位計測システムは、地すべり、高速道路斜面、石灰石鉱山、ダムなどの安全監視に数多く使われている。 技術開発の歴史、基礎理論、新しい研究成果について実用事例を交えて講演した。 特に、このシステムを活用して、地すべり斜面下に高速道路トンネルを安全に建設した技術に対して、平成20年度岩の力学連合会の技術賞を受賞している。

基調講演中の清水教授

A keynote address at 2009 Korea-Japan Joint Symposium on Rock Engineering:
Prof. N. Shimizu, "Displacement measurements using Global Positioning System for rock movements -Fundamentals, new developments and practical applications- ", pp. 17-43, 2009,10 (Suwon, Korea)

Spatially separated intrinsic emission components in InGaN ternary alloys

● Physical Review B (Impact Factor 3.3)への掲載

山田陽一准教授(電気電子工学科)らが、光デバイスの研究開発分野において注目されている窒化物系化合物半導体に固有の高効率発光機構に関する実験的研究を取り扱った論文。

ナノスコピックな実験的観測結果に基づいた独創的な論点が注目され、高く評価されている。

下図は近接場光学顕微分光法により、空間分解能30ナノメートルで測定したInGaN混晶薄膜におけるバンド端発光の発光強度分布を示している。InGaN混晶のバンド端発光にはエネルギー的に分離された本質的な2つの発光成分が存在し((a)高エネルギー側と(b)低エネルギー側)、その2つの成分は空間的にも分離していることを明らかにした。

バンド端発光の発光強度分布

Published in Phys. Rev. B, Vol. 80, No. 19 (2009), p.195202 (Impact Factor 3.3)

Trace inequalities on a generalized Wigner-Yanase skew information

● Journal of Mathematical Analysis and Applications への掲載

この雑誌は、数学関連雑誌の中ではインパクトファクターが高く、国際的注目度や学術面での影響力が大きい。量子力学でよく知られている不確定性原理を改良したもので、科学研究費の獲得にもつながっている。

不確定性関係

Published in J. Math. Analysis and Applications, Vol. 356(2009), pp. 179-185
Dr. S. Furuichi, K. Yanagi and K. Kuriyama, “Trace inequalities on a generalized Wigner-Yanase skew information”

Oscillation and Synchronization in the Combustion of Candles

●The Journal of Physical Chemistry A (Impact Factor 2.9), Vol.113, No.29の表紙への実験データ写真の掲載(図左)と 論文掲載。

この論文は国内5大学の研究者の共同研究による成果で、実験的研究の部分を山口大学の学生・教員が担当し、実験データがこの雑誌のVol. 113, No.29の表紙を飾り、国際的な注目を集めている。

内容は、ろうそくの炎が非線形振動子であり、複数のろうそくの炎の間で同相・逆相の同期振動現象が観測され(図右)、そのモデル化と数値解析に成功したもの.

Vol. 113, No.29の表紙

Appeared on the cover page of J. Phys. Chem. A, Vol.113 (2009), No.29, and Published in the Journal pp. 8164-8168
Dr. H. Kitahata, J. Taguchi, A. Osa, H. Miike et al., “Oscillation and Synchronization in the Combustion of Candles”